回廊11号感想
オンライン文芸マガジン『回廊』(http://magazine.kairou.com/kairou/)最新感想だべ。
11号(http://magazine.kairou.com/11/)のテーマは「エロこわい」っつーことで、特集小説にエロいのが揃っていますねー。なんつーか、R12くらいじゃね?
ちなみに今回から、HTML版は長い作品は分割し、ショートカットがもうけられました。
■表紙:アニマの女(http://magazine.kairou.com/11/img/index_l.jpg)
今号のテーマを体現した、どこか薄ら怖くもありながら艶っぽいイラスト。
背景に乱立する十字架が大好き。
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特集 『エロこわい』
【小説】
■呼び声 著/市川憂人(原稿用紙換算70枚:http://magazine.kairou.com/11/spnovel/yobigoe.html)
うーん……「それなんて官能小説?」でしょうか。テーマに正しく、エロいホラーというか、官能小説に恐怖要素を取り込んだ感じというか。
粗筋は、弱みを握られた女が夜な夜なテレフォンセックスを強要され、憧れの同僚にそれが露見するのを恐れる……というもの。気のせいかな、凄い既視感あるんですけど、俺。
最後、これは○○オチなのかなー?
恐怖感やエロさはしっかり書かれており、技術自体は高くて安心。だが、その安定からはみ出し切れてない感じも受ける。これなら、最後のほうのオチを更に捻りをきかせて、あっと言わせて欲しかったと思った。残念。だいたい、「彼」の終盤の豹変っぷりで黒幕じゃねーってオチはどうなんかと思う。
余談だが、主人公の職業が派遣社員ってのは時勢を反映していて生々しいっすな……。
■はるのあらし 著/姫野由香(原稿用紙換算15枚:http://magazine.kairou.com/11/spnovel/arashi.html)
御伽噺っぽい表紙がよい感じ。
短いのですっと読める。前半エロくて後半どんでん返し。返しが二度あって、その二度目がオチにあたるんだが、中々良かった。グレイの正体とか詳しい事は気になるけど、色々想像できてこれもいいかなー。
ただ、ジャンプの古い漫画「アウターゾーン」にも似たような話はあったらしいので、ちょっと気になりますね。俺は思い出せないや。
■約束したはずなのに 著/水野奏美(原稿用紙換算15枚:http://magazine.kairou.com/11/spnovel/promise.html)
えーと確か、ちゃーなのお友達だったかな……。
エロこわいというテーマにおいて、エロよりこわいに重点が置かれた短編。
母親への恐怖、いまだ分からぬ叱られた原因、そんな子供時代誰もがあった怖さに、とっかえひっかえ男を連れ込む母への現実的恐怖が絡み、収束するラストはちょっとゾッとした。ホラーです。
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【イラスト】
■自己開拓 絵/クミコ(http://magazine.kairou.com/11/spillust/reclaim.html)
このタイトルでこの内容、うーんかなり好きだ。生きた人形のエロさ的なヤバサがグート。おっぱいや首の縫い目とか、包帯もまたよいお味……。
■償ふ 絵/marun (http://magazine.kairou.com/11/spillust/expiation.html)
和風なのは俺の好むところですが、タイトルとの繋がりが分からないかな。あと、後ろの鬼(?)が着物というか平安装束なのに、少女が水着っぽいのも残念。絵は埒外だけど、塗りもややメリハリがない気がした。
■Nightmare 絵/水梨柊(http://magazine.kairou.com/11/spillust/nightmare.html)
一瞬何が描かれているのか分かりにくい絵。仮面の女の子が好きです。右下の女の子に気づくのにちょっと時間かかっちゃったぜ……。作中に入っているNightmare.のロゴは素敵です。
■凶器と狂気と赤い蜜 絵/柚玖琉(http://magazine.kairou.com/11/spillust/redsyrup.html)
「自己開拓」はイラスト四枚の中でナンバーワンに推す俺ですが、ナンバーツーならこれですね。いえ、むしろ甲乙つけがたいって感じですけど。刃物で血塗れで女の子と、フェチな取り合わせですが、下半身からさきに描かれている物の取り合わせがまたいい。もちろん、彼女の表情も狂気度高くて実にグートです。
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【読み切り小説】
■キミとボク、仮面人間 著/蒼ノ下雷太郎(原稿用紙換算50枚:http://magazine.kairou.com/11/novel/mask.html)
人には見えないモノが見える能力者の苦悩系青春。と言うと平凡ですが、彼が見えるのは「仮面」なのでありました……。作中には叙述トリックも存在。うーん普通にひっかかったぜ(伏線はあるけど、気づかないってばー、もー)。
■地獄は終わらない 著/蒼ノ下雷太郎(原稿用紙換算25枚:http://magazine.kairou.com/11/novel/hell.html)
11号の中では特に好きな作品。手ごろに読めるし、仮面人間よりこっちだなー俺。
親より先に死んだ子は、親不孝の罪で三途の河原で石を積む……地獄に落ちた主人公の視点を通し、そんな三途の河原地獄の生活を綴った新感覚エッセイ(嘘)。
俺は常々、現実にしろ小説世界の設定にしろ、「地獄」とゆー不条理極まりねえ世界の実在というか、んなもんが存在する説得力とかを疑っていたんですたが、この小説は俺のそんな疑問を吹き飛ばしてくれました。いやまあ、火あぶりにされたり切り刻まれたりする地獄の場合はまだ首傾げるんですけど。
内容に即したタイトルも秀逸であり、諦観や退廃に満ちた作中の雰囲気は、まさに「地獄は終わらない」です。
■輪廻/輪舞 著/星見月夜(原稿用紙換算90枚:http://magazine.kairou.com/11/novel/rondo.html)
回廊11号の最高傑作!
90枚という分量もさることながら、それに相応しい内容であったと思う。
ややネタばれになるが、ファム・ファタールである自覚のない主人公が様々な人々(たいがいは男)に傷つけられながら彷徨っていく物語。そして、彼女が行き着いた先は……。
基本的に暗い内容である。どこか自分にも覚えがあるかもしれない子供時代の悲しい出来事に始まり、彼女に降りかかる不幸と、それから始まっていく堕落と彷徨は胸を抉るものがあり、物語に惹きつけられる。
非常に内省的な書かれた方をしており、主人公の周囲の登場人物達の書かれ方は希薄であり淡白だが、それが欠点というわけではない。ともかく、そういう作風になっているのだ。
繰り返される悲劇と、束の間の癒し。主人公が幸せを味わっている瞬間も、読者はその先に待つ破滅を予感させられずにはいられない。
一人の女の悲しい人生の物語。けれど、最後に彼女が出した結論と、エンディングに悲しいだけではない奇妙な「すっきりした気分」を感じられるのは、なぜだろう。不思議と読後感そのものは悪くなかった。
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【連載小説】
■小国テスタ2 後編 著/桂たたら 絵/時磴茶菜々(原稿用紙換算35枚:http://magazine.kairou.com/11/novel/tester.html)
馴染むっ! ちゃな絵とたたらん作品は実に馴染(以下略)。
第一回のほんわか路線から、シリアス路線に移行して早第二回。
一見に平和に見えた世界に垂れ込む一筋の暗雲。それは、気のせいかと見過ごしてしまえるほどかすかで些細な変化。それでも、裏側で世界は確実に変化し、それが表面化した時、突然平和が打ち破られ裏切られたような錯覚に陥る。
ついに明かされるテスタの意味と、ミロゥの正体……テスタ世界はまさに激動を迎える。あー、早く続き読みてえなあ。
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【超短編】
■秋山真琴 CLOSE THE WORLD, OPEN THE NEXT (http://magazine.kairou.com/11/sss/world.html)
一瞬エルフェンリートのOPを思い出した(違う作品やがな)。
■雨街愁介 IT WAS GONE TO SOMEWHERE(http://magazine.kairou.com/11/sss/somewhere.html)
何てことない事例も、固有名詞がシュールだとシュールになるという例?
■雨街愁介 NOTHING... (http://magazine.kairou.com/11/sss/nothing.html)
手法自体は上記のものと同じ感じ。ただ、出てくるのが不在や非在なのが、若干哲学的でもある。
■雨街愁介 ROSE PLASTIC STORY (http://magazine.kairou.com/11/sss/rose.html)
超短編としては長い一本(800文字)。世界にはいくつかの赤い薔薇がある……というフレーズは気に入った。
解離的と題されているだけあって、どうも主観視点が激しく入れ替わっているらしく、非常に読みにくかった。多分オモシロさというかストーリーを理解するには、数回読み返さねばならないだろう。