久慈光久『狼の口 ヴォルフスムント』2

 生きること即ち戦いよ みんな命懸けて生きている
 そして人生の終わりに 選んだ生き方の代償を支払うの

狼の口 ヴォルフスムント 2巻 (ビームコミックス)

狼の口 ヴォルフスムント 2巻 (ビームコミックス)

 お代官様は今回も絶好調でした。
 なんか全体的にエログロ度もあがってますしね。セックスシーン二回とか。前回の渋いというか無骨さから一転、表紙もまた扇情的なものに仕上がっております。
 男も女も(割合的には女性の方が高めか)とことん酷い目に遭い続ける話を、高い画力や話の展開などで読ませる技量は感嘆すると同時に、執念の凄まじさを感じさせる作者ですね。
 いくら馬鹿女のエヴァでも、泣いて命乞いするシーンはちょっと哀れをもよおさなくもなかったり。


 三話収録だけど一つは前後編なので、エピソードは二本立て構成。
 最初の話がその前後編で、のっけから鞭打ちのシーンという相変わらずのノリをかましてくれます。子供の拷問から開幕した回もあったが、この鞭もねえ……。
 つーか星形ってあんな風に刺さるんだ。帯裏の説明や「死んだ仲間に乾杯」「うち二人は殺された」から、フランツとヨハンはあれで打ち殺されたんすね……。
 一話と二話、盟約者団に裏切り者が!? と帯ではサスペンスな感じにあおられておりますが、中身はその裏切り者が主人公に据えられた話。
 おまえの女房、いいオカズなんだよーと言われたりするハンスには同情しなくもないですが、その結果として村の仲間を凄惨な処刑を送り込んだ訳で、ああなったのは当然の報いか。
 エヴァの頭の悪さは凄かったというか、彼女がいなかったらハンスも道を踏み外さなかったでしょうね。あの金銀指輪を旦那の稼ぎで買える物と思っていたとか、無知にもほどがある。
 ラストは女将さんが格好良すぎでした。ただ、ここで盟約者団の男たちにピシャリと言い放ったものが、後の死亡フラグな台詞に繋がっちゃったんですから、隙のない作者です。
 三話目は旅芸人の母娘が、関所を通り抜けようとしてやはり酷い目に遭うお話。ユヴェールのけなげさは見ていてこっちが辛くなってきますよ。
 この二人の取り調べシーン、兵士の口元とかしっかり笑ってますなあ。机に括り付けられたユヴェールとかいろいろやりすぎでしょう、とすら。
 印章がどうにか越境したり、前回から少しずつ狼の口にはほころびが生じています。それはネズミがかじるような、簡単に塗りつぶせるヒビのような、かすかなものですけれど。
 この話でどうやら同盟者団がもうすぐ決起するらしいことが分かりますが、ラストではとんでもない代償が出てしまいます。それはなんとも大きなもので……。
 この作者、人が酷い目に遭うだけじゃなく、処刑された死体のその後までわざわざ描くあたりが徹底していますね。ユヴェールの足に当たったしゃれこうべ、一巻一話のお姫様と騎士じゃなかろか。


 エヴァの宝飾品、夜集まって密談する男たちのフード、熱蝋で印を押す公の仕草など、細かいアイテムまできっちり「中世」を再現しているのも見所の一つ。
 そして中世ヨーロッパの血なまぐささもばっちりという……。
「我が悦楽の峠へ」という台詞といい、ニヤケ代官(by印章を渡された男)とも称されるあの表情で拷問の風景を眺める様といい、時代背景を抜きにしてもお代官は筋金入りのサディストですね。
 若い頃苦労した、という台詞がありますが、それは……もう……すっごく苦労したんだろうなあ、と想像するだけでおののきますぜ。
 三巻はジュニアの関所破りになるのでしょうか。たぶん普通に顔をあわせたらまずいでしょうし、どうなることやらハラハラしますね。容赦ないというか、絶望のもって生き方をとても心得ている。
 さて、お代官様ことヴォルフラムは、選んだ生き方の代償を支払うのでしょうか。死体はまともに葬られないだろうとしても、あのニヤケ顔が崩れるとは、とても思えない。
 ……実はちょっと、崩れて欲しくないとも思ったりする。