アラン・ムーア, ジーン・ハー&ザンダー・キャノン,『トップ10』1,2

 地下鉄の車内広告……
『アダマンチウム配合のダイエット・サプリメント”ローガンDNA”』

トップ10 (AMERICA’S BEST COMICS)

トップ10 (AMERICA’S BEST COMICS)

トップ10 (AMERICA’S BEST COMICS) #2

トップ10 (AMERICA’S BEST COMICS) #2

 アラン・ムーア繋がりで購入したコミックス。
 超人(サイエンスヒーロー)の増殖に困ったアメリカは、彼らのための隔離地域を用意した。そこで今度は超人同士の交配で超人人口の爆発増殖が起き、えらいことに。
 困り果てた人々の、異次元の偉い人にお願いして、超人を取りします超人警官の超人警察署を作ってもらうことになりました。それが第十分署、通称トップ・テンなのだ……!
 というわけで、ホームレスからCEOまで、チンピラだろうが善良な市民だろうが全員スーパーパワーを持つ大都市で、やっぱりスーパーパワーを持った警官たちの日常を追った話です。
 いわゆるアメリカン・ポリス・ドラマをスーパーヒーローたちの世界に落とし込んだもので、徹底的なアメコミパロと、刑事ドラマなノリのマッチ具合がとても痛快な作品。
 日本じゃ二巻まで刊行され、一応これで終わりとなっているが、本国ではまだミニ・シリーズ(つまり外伝?)が続いている模様。すごい読みたい。
 二巻までの話で「アメリカンドラマの第一シーズン終了」ぐらいのまとまりぐあいがあります。つまり続けようと思えば、幾らでも続きが作れる仕様。
 実際シーザー巡査部長の道ならぬ恋とかロビンとスマックスのその後とか(それはミニ・シリーズで言及があるけど)、ジョーと対立を深めるどころか孤立しつつある感じのチェイニーとか、ルーモアは何を操作してんのかとか、ペレグリンの連れ合いとか、気になるネタは山ほどあるのですよ〜。
 個性的なキャラクターたちと、次々と並列的に発生していく事件の数々、そんな群像劇を捌ききる手腕は実に見事です。そして画面中に書き込まれたネタの嵐!
 折り込みチラシかと思ったら注釈書が入っていて、そこに○ページの○パネル(コマのことをこっちじゃパネルと言うようです)の○○は〜と説明されるんですね。
 特に笑ったのは引用部分のやつかな。ローガン=ウルヴァリン、切り売りされとんのかいっ! という感じで(しかも病院のシーンで骨と皮だけの彼が出てくる。あの髪は健在だ)。
 それとテレビ番組『要塞ビフォーアフター』は日本の番組を思い出したけれど、あっちにも同じようなのあるのかな……?
 病院のシーンにはありとあらゆる博士・医者キャラクターが背景に登場し、墓場のシーンには幽霊・死人のキャラが大集合。
 98pのDr.フェイト、Dr.ストレンシ、Dr.ドゥームの三人がレントゲン写真を見る中、本物の医師が一人しかいないのは大笑い。
 あとゴーストライダーが一輪車漕いでいるのは何の冗談か。ブラックハートにバイク壊されでもしたのかね。
 日本のキャラや、日本人にも馴染み深いキャラもあちこちに隠れています。ある意味これもウォーリーを探せ! いたのはリアル版パワーパフガールズ(後ろ髪をマントと間違えられて彩色されている)、鉄人28号、アトム、機関車トーマス、デブいセーラームーン
 自虐ネタも所々あって、一巻の留置所にロールシャッハ・ナイトオウル二世・Dr.マンハッタンがブチ込まれているのにも笑う。オウルの格好が酷すぎるw
 なんかマンハッタンは病院のシーンでも出ますしね(三人に増殖した上、紫色になってそのうえメタボっている。ただし全裸)。オウルシップは二、三箇所ぐらい形を変えて登場してるなあ(その調子で様々な秘密基地、要塞、乗り物もネオポリスの交通に登場している)。
 他にも葬式のシーンで牧師(『プリーチャー』の主人公ジェシー)が唱えるお祈り、
「主の限りない御知恵によりて 彼女が複製され、輪廻転生し、再登場を果たすその時まで」
 ……いいのか、それでw まあさすがにこんな世界でも、死人がホイホイ生き返ったりはしないんですね。すぐ傍に不死身の男がいるけど。
 そしてふと見たゴミ箱に捨てられているスパイダー・スーツ。駅前でバリアフリーを訴える車椅子キャラ(プロフェッサーXとか)集合も笑ったなあ。
 そんな調子で、ほとんどどの画面もパロネタやアメコミキャラクター・メカニックで埋め尽くされ、見事な出来映えになっています。日本の漫画でここまで徹底した作品はちょっとないんじゃないかな。
 その昔、デモンベインはキャラの台詞や小道具に色んな漫画・アニメ・ゲームのネタがブチ込まれまくっていたけれど、漫画の画面情報限定だとこういうのは無かったと思う。


 じゃあこの作品のオリジナル部分はどうなのよ、ってことで、次はキャラクターについて。
 物語は新米警官ロビン(♀)がやって来るところから始まります。彼女がバディを組むことになったスマックスは青い肌の大男、ビームをぶっ放し何と不死身の体を持つ。
 無口で無愛想で、これからうまくやっていけるか不安な相手。しかしそんなスマックスは、過去に相棒を失った傷を抱えており……うーん中々王道です。
 ロビンは父親謹製のロボット軍団がスーパーパワー。他に比べると結構地味で、二巻も入院したりでちょっと影が薄かった印象。いい子なんだけれど他のアクの強い面々に食われ気味か。
 スマックスは前歴がドラゴンスレイヤーとあるから、並行世界のファンタジー地球出身なのかもしれない。二巻あたりではすっかりロビンにデレてるツンデレ
 鳥人ペレグリン警部補は鳥のコスチュームで空を飛ぶ。その衣装はXメンの世界に混じっても違和感なさそうなバタ臭さ。こういうのは慣れてないと苦手に感じる日本人もいるかも。鳥人スーツ抜いたペレグリンさんは短髪ムキムキのG.I.ジェーン風味でびっくりです。警官って言うより女軍人だよこの人!
 ジャッキーはシースルー能力者(そんな言葉は作中にない)、しょっちゅう半透明になって、壁抜けをやっちゃうぞ! 凄く便利そうだが、半実体化中はフォトンとかで体が構成されているんでしょうか。レズビアンだけれど、同性愛者キャラが組まれているあたりもまた、アメリカらしい作品だと思う。
 なにげに強いのが検死官のDr.サリー。体を縮小して死体の中に入るんだけれど、自分以外の物も大きさを変えられるからこそ恐ろしい。
 見た目のインパクトならケムロ巡査部長。なんと人語を解す天才犬で、外骨格装着で人型になるぜ! リーとのいざこざ「イカしたボルゾイとつきあってるんだ」などのくだりは爆笑。というかヒドイよこの犬(ひと)!
 サン・リーは人造人間である……バイオニックなんですねえ。全身の色素を自在に操るヌーディスト警官。髪の色も変えられるんだろうか? 彼女はさばさばしているからあまり嫌悪感はないんですが、その、女って下履きがないと結構汚れるんですよ……?
 リーと組むイルマ・ゲドンはフルアーマー警官。何とその武装には核兵器まで搭載している……って、放射性物質発見時のリアクションといい、この作品また核の扱い軽くね!? あと彼女の名前はアルマゲドンをもじっているんだろうか。武装の印象が何となくハインラインの機動歩兵。
 ジャクソン刑事の共感覚とESPはミステリアス。彼女の耳がベートーヴェンを捉えるとき、事件の真犯人を突き止めるぜ! しかしこの人も道ならぬ恋をしてるなあ。
 コルボ刑事は渋いですな。上半身裸で孔雀の羽を背中につけてるとか、普通に考えるとギャグなのにカッコイイ。ヌビア人とか呼ばれてコロシアムで殺しあいさせられるハメになるくだりは、中々災難です。
 デュアンとチェイニーはセットで好き。前者のデュアンはカウボーイ風で、ドラムマガジンの黄金拳銃が武器のおっちゃん。ママに頭があがらない。彼の実家で起きたスーパー・マウス駆除騒動とその顛末は抱腹絶倒でした。その……駆除屋さん、可哀想過ぎます。
 後者のチェイニーは電撃使い。頭から発射するので、出る時は顔が骸骨になります。能力的には格好いいんだけど、失敗が多くて冴えない感じ。ムーアの「スーパーパワーを持ってたって、マヌケはマヌケ」という持論を一番体現している気がする。二巻後半からは株が落ちたしね。
 登場人物紹介に乗ってないマルチウーマンはちょっと不憫。まあ俺も警部やグルシュコやモンスーンなんかは略してますけどね。
 ただ、全員がスーパーヒーローってことで、本名と一緒に必ず別名があり、その両方が使われるので名前を覚えるのが面倒でした。
「シナステシアっていつ出てくるのかなあ」と思っていたらそれがジャクソンのことだったり、シナステシアが更にシンって略されて使われたり、ややこしいわ!w
 かと思えば二巻ではA.E.(アルター・エゴ)=本名って概念が出てくるし。うおお。
 まあそこは些末ごとで、話も色々と面白かったです。アメリカの警官はなぜそんなにドーナツとコーヒーが好きなんだ。傘があれ以上進化しないのと同じ理由なのか?
 サンタクロースが落ちてきたり、ゴッジーラが警察署に怒鳴り込んだり、容疑者を捉えに行ったら風船のように膨らみまくってやべえことになったり大騒ぎ。
 あと警察署の人たちがゲームになって、それをリーがプレイするネタが気になりましたw あたしゃこんなに弱くないよ! ってキレてたけど、これがあの伏線だったんだろうか……。
 難を言えば、一巻終わりの神様殺人事件があまり面白くなかったかな。この人たちは北欧神話知らんのかーいと疑問が消えなかったし、変なシュールさがあった。
 しかし、今も続きが翻訳されるなら是非読みたい作品でした。他のアラン・ムーアやアメコミも買いあさるとしよう。値段がどうしても割高なのが厳しいけれどね……。