江波光則『ストレンジボイス』
あたしはきっと止められない。
死ぬまであたしはこうなのだ。
それが他人を歪めて壊してしまったとしても。そんなつもりはなかったとしても。あたしはきっと、あたしが一番大事なのだ。
- 作者: 江波光則,李玖
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/01/19
- メディア: 文庫
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かなりイカレたいじめっこ・日々希、その被害者で復讐を目論む遼介、体質的に遼介の復讐計画に首を突っ込まざるを得ない少女主人公・水葉の物語。
カラー一ページ目の、錆とも血ともつかぬ赤い色がついたロッカーとか、粗筋とかからすると、暴力描写やグロのある話に思えるが、そのへんは序盤のイジメ回想で終了。
最初はいまいち大人しい没個性キャラに見えた水葉が、序盤を過ぎると前述の二人に負けず劣らぬ「問題児」「異常」であることが分かり、誰よりも強烈にキャラクターが立っていた。
これは粗筋などから推し量れるような「三人の物語」ではなく、あくまで「水葉の物語」。日々希と遼介が彼女と関わる人間で特別際だつかと思いきや、担任のディームス先生や網代木も割と存在感があったので、水葉以外のキャラがそんなに差別化はされてなかった気がする(個々のキャラが立ってないという意味ではない)。
物語の焦点になるキャラクターと、物語を動かすキャラがほとんど一致していないためだろう。実際に話を動かすのは、語り部である水葉の視界外にいる人々だ。
最終的に日々希、遼介、水葉は三位一体とでも言うべき関係性を築く可能性が見えてくるのだけれど、それは親愛とか甘酸っぱさからはほど遠い関係。
むしろジャンケンの三すくみとか、物理法則的にそうだからくっついている分子同士みたいなものというか。そんな感じ。
水葉はあの後どうするのか。これからもずっと同じこと続けますというエンディングなんだけれど、遼介と日々希の仲介をどう請け負っていくのか気にはなる。
最終的に日々希は因果応報のごとく、悲惨な境遇に置かれる。遼介は復讐を取りやめる気はないが、直人の行動で最初に予定していたカタルシスはもう得られない。
物語の時期が卒業を間近に控えた中学三年の終わりで、エンディングも卒業式が終わった後と、話のシメだという空気はあったものの。終盤、このペースでちゃんと話が終わるの? と心配になっていたら、やはり少し食い足りない感じで話が終わってしまった。
後味もあまり良い部類じゃない。ただ、なぜかもやもやした気分にならない妙な読後感だった。
水葉の語り口がかなり冷めているような、静かに熱を秘めているような、澄んだ絶望を感じさせたからだろうか。遼介のフェードアウトがやや物足りない感もあるのも含め、そういう所がラノベではなく一般小説寄りと感じた。
助けて欲しいと思っても、言っても無駄だからそれは声にならず。
普通になりたいと思っても、根っからそれが無理だと理解していて。
結局自分が大切だから、他人を犠牲にしても水葉は自分のやり方で生き続けていく。
そんな風に彼女がもがく様は、思春期に誰しもが感じる悩みをフィクションらしく負の方向へ誇張し、共感を呼べる作りになっている。
どのキャラクターも無駄がなく、それぞれきちんと使い切られていた。ただ、水葉の特異体質を考えると、もう少し家族や家庭環境に触れても良かった気がする。
ディームス先生は「いやあんた、木刀数本折れるまで遼介が殴られた時点で何かしろよ!?」と思い、序盤は好きになれなかったりした……というかこの部分は読後もまだひっかかる。
ディームス先生が色々あって疲れちゃって、うまく飄々とした立ち位置を取るようになったのは分かるが、遼介イジメ(虐待)はフィクション的な常軌の逸し方なので、対処が甘いなと。
直人の件は短期間で起こっているし、すぐ先生が対応して無くても別に違和感はなかったんですけどね。直人の策略は電話をした時点ですぐ読めたので、それが先生の口から明らかになるまでちょっともどかしかった感じ。その後の生徒とのやり取りは良かったけれど。
それにしても読み返すと、やはり三人の誰もが袋小路の未来しか待ってないように見えて困る。
水葉は何とか生き抜くかもしれないが、日々希は遠からず死にかねないし、遼介は日々希亡き後も大丈夫だという保証がまったく無い。
この話は水葉の物語だから、彼女が生き延びていく可能性が示唆されているだけでも、物語が終わっていると判断していいのかもしれないが。カラーページや粗筋であれだけ「三人」を強調しておいて、この結末? はやっぱ物足りないよなあ。
日々希の行動などが過剰ではあったが、イジメの構造と原理を描くことには成功した作品。イジメを肯定するでもなく、イジメかっこわるいでもなく。みんなイジメって悪いことだってすり込まれているから、イジメに正当性求めちゃうんだよね、のくだりとか。
日々希が新たなターゲットを見つける展開なんか、よく出来ていたと思います。それまで積み重ねてきた、好感度が一欠片も無いクラスメートの描写が光ってた。
悪くないけど、ラノベで出してラノベっぽさがどこかにあると思わせたまま読ませるのって何かおかしくね? という作品でした。次出せるのかな、この作者。一般でなら見れるかも?
後書きで、自分の一生を小説にしたら誰でも傑作が書けるという話に対して「一生を小説にしたら、というか、そんな真似出来たらそれだけで優れた才能」という作者の言には超同意(笑)。