久慈光久『狼の口 ヴォルフスムント』1
太陽はすべて沈めてしまえ 灯り悉く斃れてしまえ
真っ白な山の暗がりの けものの道を通るのだ
- 作者: 久慈光久
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2010/02/15
- メディア: コミック
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なにせ一話は冒頭から処刑シーン、シメも処刑シーン。二話は戦闘とか多めですが拷問のコマとかあるし、無残な晒し屍体なんかもある(あれ背後からの絵ですけど、生首はよくてもあっちはアウトなのね。格好が格好ではありましたが、うーん)。で、三話に至ってはのっけから子供が拷問されるとくる。あげくに父親処刑の片棒担がされるとか、このコンボはジョジョ一部「あたしのあかちゃん」*1を彷彿とさせるセンスです。
しかし冒頭の親子無残物語が、三話の主役であるヴィルヘルム・テル父子とダブらされる演出は見事。一話のありえねーオチにしても、そういうミスリードがあったから何かすんなり受け容れた向きもありますし。
短編集は色々とすっきりしない終わり方の話ばかりだったんですが、こちらは一応各話はきっちり区切りがついているのも安心。画力もあるし、この時代の風俗もかなり詳細ですよね、これ。
私たち日本人が中世ヨーロッパに抱きがちなイメージって、『剣と魔法のファンタジー』でデフォルメされたそれだったりしますが*2、実際のあの時代はもっと血なまぐさい。その空気が見事に詰まった筆致です。
しかしまあ、こうした話であるからには悪代官(笑)ヴォルフラムさんは制裁を受けないとならんのですよね。高笑いして逃亡エンドとか、生死不明エンドもありな気はしますが、さてどうなのか。
若干テンプレ臭さは否めないものの、糸目優男でニコニコしながら死刑執行する彼のキャラは好きなので、その最期を思うと寂しい限り。ところで一話だけ黒髪なのはなぜだろう……。