S-Fマガジン編集部『ゼロ年代SF傑作選』

 SF傑作選と言いつつ、書き手の大半がラノベ関係だったりするのが業界の現状を感じさせる……。ハヤカワSFコンテストって今年のはずですがいつやるんでしょう。あとSF新人賞は結局今年は募集なし……?

冲方丁マルドゥック・スクランブル”104”

 お目当ての作品。うぶちん好きなので嬉しい一編である。ああ、ボイルドがウフコックやイースターと一緒にお仕事してるよ……当然他の面子は登場しない訳ですが。
 ゲストキャラの葛藤とか過去とかに絡めて人間ドラマしてるし、うまく纏めてるんだけど、無難という印象は否めないような。こう、うぶちんならもっと尖ってていいんじゃね? という不満がある。
 冲方入門としてはとても勧められんというか、これが初冲方の人は「ある程度の技量はある作家」とは見てくれるかもしれないが、そこから突出した何かを感じてくれるかは微妙な気がする。
 まあファンサービス短編と考えると及第点なんですけどね。

新城カズマ/アンジー・クレーマーにさよならを

 新城さん大好きだが、冒頭のめんどくせえ引用シーンと、その後に続く女学生らの会話は最後まで後回しにしたくなる。昔から蘊蓄語り多いねん、多いねん。衒学趣味とでも言えばいいのだろうか。
 古代の少年たちと、未来の少女たちのエピソードが交互に語られる構成で結構読みづらい。まあ過去も未来も現在から遠く離れちゃうと理解しがたいのは同じなんですよーってことかもしれないがどうしろと。
 未来世界の描写は中々楽しいのだけれど、説明されないことが多すぎてそこがどうにももにょる。タイトルの意味が分からないが、そこは解説によるとサマー/タイム/トラベラーとの関連らしい。やべえ、積んでいるよ。

桜坂洋/エキストラ・ラウンド

 何か平凡だなあ、という印象。著者の短編集なんかに収録される分には問題ない一編だけど、傑作選と名の付いたアンソロジーに、代表作みたいな顔で掲載されるのは違う気がする。
 一応五年前に出た作品『スラムオンライン』(未読)の後日談という形を取っているようだから、ファンサービス的作品と思えばそれも仕方無いのだろうか? そういうのばかり集めているこのアンソロって一体。
 しかしまー、主人公が友人関係うんぬんについてとっとと諦観の姿勢でいたのに、ラストではあっさりあの「報酬」があるのはいまいちカタルシスが足りない。引きこもりな後ろめたさやらなんやらは地味に描写が積んでありましたけれど、どうも薄いというか情念の深さが感じにくかった。
 それとトロフィー盗難の件も「本当の一番を表彰したかったんじゃね?」と0秒で思い至った結論そのままが犯行の動機だったのも拍子抜け。どうせならそこを踏まえて犯人の心理とかも踏み込んでくれれば……と。
 面白くはあったけれど、何か突き抜けない感じだった。

元長柾木/ディドリーム、鳥のように

 人の心がおとぎ話になって見えるという設定と、最後でバラされたオチで大いに受けた作品。そりゃ職場の人も奇異な目で見るわwww
 しかし背景世界が微妙に中二臭い感じは色々と気にかかる。異様な人名とか、組織の存在とか。というか、おとぎ話攻撃がどれだけ深刻なことがいまいち分かりづらい。倫理的に拙いのはそりゃ分かるんだけど……。

西島大介/Atmosphere

 短編漫画なんでコメントしづらい。同じ顔の人間を一方は殺して一方は金もらって、ってそりゃ座り悪そうだなとは思うが。

海猫沢めろん/アリスの心臓

 いつぞやのオフ会でもらった『零式』積んでますすんませんすんません。
 ベスターばりの言語実験ということだったが、普通に読みにくいだけだったような気が……。カオスな感じは伝わってくるんだけど、こういうのはやはり拒否感がある。
 佐々倉がいつも寝てるということについてはもう少し説明が欲しかったなあ。よく分からない部分が多くて困るが、まあSFではよくあることか……。

長谷敏司/地には豊穣

 ナショナリズム炸裂な一編。まあいいんじゃないでしょうか。
 実はこの短編集、かなり間を開けて一つ一つ読んでいるので、この辺りになるとちょっと記憶がおぼろげだ。

秋山瑞人/おれはミサイル

 冲方丁目当てで買ったら、最後はこれが一番面白かった。秋山瑞人は読んだ数は少ないけれど凄く好きな作家さんで、やはり異世界や人間ではないものの心を書くのが巧い。
 登場人物たちは知性を持った航空戦闘機、彼らは地面なんてものを知らず、この世は空しかないと思いながら戦い続けている。そんな時に主人公は自分に搭載されたミサイルにも心があるのを知って――、
 いやもうこの設定だけでぐっはーと唸ってしまう。
 しかもこれらの説明を実にクールに華麗に、読者の頭に滑り込ませてくれるんだから恐れ入るったらない。新城カズマを敬愛してやまない自分だが、正直こうした設定語りの巧みさではどうも比べてしまうなあ。
 まさにトリに相応しい真打ちでした。ごちそうさま。