アダチケイジ『アダチケイジ大全集The DRIFTERS』1

 オレはただ…… 正義と多少の規律をもちよって……っ
 級長(どくさい)的権力をふりかざしてただけやのに……!!!

アダチケイジ大全集 The DRIFTERS(1) (モーニング KC)

アダチケイジ大全集 The DRIFTERS(1) (モーニング KC)

 怪作。新人の処女単行本でありながら、読み切り数本が同時収録され、350pの分厚さを誇る。
 裏表紙にして既に作中の台詞がちりばめられ、独自の世界を開陳しているが、いやはや参った。
 級長(フィクサー)、違和(パンツくいこみ)感、「まずは地の利を得んため自陣(いきつけ)の茶店(フィールド)に持ち込む!!」などなど、すべる一歩手前のギリギリな言語感覚を乱発。
 常軌を逸したルビ遣いもさることながら、「そこもとら」「権力に纏(まつ)らう」など古風な言い回しがなぜか配合され、特異な空気を醸し出しています。出だしの「運命(であ)ってしまった」を見た時は、特攻の拓風味の言語センスかと思わないでもなかったが、実際はそうでもなかった。
 画力は話が進むにつれ向上するものの、基本ナンセンス系と言おうか。まあ巧いとは言い難い、泥臭さのある絵柄です。ただ、一話終わるごとの余白に載っている落書きからすると、本当は凄く巧い人なのかもしれない(小学生とは思えないスタイルのニャンコとユッケとか)。
 大筋としては「田舎の小学校で権力闘争に明け暮れる子供たちの青春」。なんか『完全覇道マニュアル [はじめてのマキャベリズム]』で、君主論を糧にクラス統一を目指して群雄割拠する小学生を思い出しました。
 小学一年生の童女(ロリータ)が、「暴力は汚辱的な行為!! "恥辱"でなく"汚辱"よ」「人は何故……権力を求めるんじゃ……?」と説教したり語ったりと、年齢以上に精神が成熟した小学生たちが大暴れ。妹萌え〜。
 懐かしの茶魔語(私が幼稚園の頃だからもう二十年ぐらい前)が出てきたかと思えば、それより更に古い「なめ猫」が出てきたり、そのくせ「ねこ鍋」に古いと野次が飛んだり、ノリは結構乱雑。
「w」が笑い声になるキャラや「中二病」など、ネットスラングも頻出するので、そういうのが苦手な人は会わないかもしれません(別に「もれ」「ぬっころす」とか言う訳じゃないけど)。
 しかししかし、本作は単純にその場の一発ネタを連打することで笑いを取るだけの、そんじょそこらのギャグマンガではない。中毒性の高いルビセンスを纏ったストーリーは意外と熱く、そのテンションは一貫として猛々しい。
「イケザの言う快楽至上主義者が人間だというなら そんなモノが人間だと言うなら ……やめるど」と啖呵を切る場面は真面目に格好良かった(まあギャグ面なのでダサカッコイイとでも言った方がいいかもしれない)。
 まあここぞという決めシーンに限って、妙ちきりんなポージングでキメてくるんですけどね。雰囲気ブチ壊しどころか、それでまたカオスさが配合されるんだから、はなはだ説明しづらい面白さが醸成されていくから困る。
 とにもかくにも、軽い気持ちで手を伸ばし、ガッと嵌った一本。一応話は一区切りついていますが、またも妙な引きで次回へ続きます。早く来い来い第二巻! とてつもない新人が現れたものですね。
 あ、収録されているオマケではThe American Prom Night がお気に入り。
 冴えない少年が冴えない少女と過ごす、卒業祭(プロムナイト)。読んだらちょっとエビが食べたくなった。出会いがネトゲというのがあれだが、ともかくこの微笑ましいカップルに幸を。


 それにしてもニャンコ先輩の生い立ちからすると、ユッケの出で立ちもコスプレではないのかもと勘ぐってしまう。蜜が夜食と言っていたし(しかし虫が来るような蜜って人間にはあまり美味しくないような。そもそも土曜の午後にカブトとか山にいないよな普通)。
 あとマカロンをあんな竹筒で流したら確実に欠けたり割れたりすると思うんですがどうでしょう。金はあるようだから細かいことは気にしないのか。そして用務員さんはなぜにニャンコ先輩に協力しますか。ロリコンですか。
 後はハカセ(作中では一番好きかもしれん)が仲直り出来るか気になる限り。エコれや――!!!