新城カズマ『15×24(イチゴーニイヨン)』全6巻

 生きるのが上手なやつはみんなみんな死んでしまえ

 今ならわかる。ぼくたちはきっと、雫にさえ耐えられないってことが。
 どうしてぼくたちは、ゲームのように生きられないんだろう?
※以下、私の新城カズマ雑感が続くので、本作のネタバレ感想を読みたい方は「続きを読む」からどうぞ。


 新城カズマ新作! と来たら、そりゃあもう私は買うしかない。いやイスベル持ってないし星の、バベルは上巻しかなくていまだに下巻が見つからないのだが。あ、すんませんサマー/タイム/トラベラーも積んでますはい。
 まあそんな不届き者ですが、新城カズマは昔から、私が敬愛する作家の一人だったりします。
 このお方はPBM『蓬莱学園』のグランドマスター(いちばんえらいひと)として背景世界のデザインをやってまして、ええその縁で賀東招二さんとも交友があり(最初のこの人の作品見たのは蓬莱学園の短編集でありました)、PBM『斬影夜葬曲』・『狗狼伝承』でも世界観設定を行い、そしてその二つの世界観を合体させたもの(でいいのか?)を著作のあちらこちらに用いているとゆーお方です。あとエルスウェアの社長。TRPG『秘神大作戦』とか『特命転攻生』も作りましたっけね(柳川房彦名義)。
 SFやファンタジー作家には時々、「自著の架空世界で使われている架空の言語」を自らデザインしちゃう人がいますが(星界シリーズの森岡浩之アーヴ語が有名ですね)、新城さんもその一人で、その名もクシュカ語(HPに大辞典があるよ!)。
 で、このクシュカ語の背景世界が上記のPBMで登場する『時念神話体系』なのでした。
 いやーだってねー、蓬莱学園のキャラクター・神酒坂兵衛が小説・狗狼伝承(富士見ファンタジア文庫)にも登場するんだもんねー。宵三郎シリーズ*1にちょこっと出るアリアザーンの呪法もクシュカ由来ですね。だから聖クラリッサ学園のある世界のどっかにも、あのハチャメチャな蓬莱学園があるのでしょう。
 にちゃんねるの作品スレでも「神酒坂兵衛はいつ出るのか?」って(ちょっぴり)言われていましたし。そーしたら案の定、六巻になって月読中将だの螺旋都市だのって時念的な用語が出てきてっ。うん、なんともいつも通りだ。
 いや、二巻で徳永と伊隅が〈死にかけ〉のじいさんと出会うくだりからして、既に時念度があがってきていたんですけどね。一般的な言い方をすると、メルヒェンとかファンタジーへとズレ込んでいった。
 この段階ではまだおとなしめだったんですが、六巻に入るともう、ね。地下の新年パーティーとかラストあたりの黒い船とか。歩乃果は最初から不思議系だったからまだいいとして、ああやっぱりこの世界の茨城には霞ヶ浦学園があって、そこではやはり時間が不思議にたゆたってんだろうなーと。
 そんなこんなで「一人の自殺を止めようと、少年少女が奔走する大晦日の一日=十五人×二十四時間を描いた群像劇」という枠組みに対して、こー普通に青春小説とか言いづらい仕上がりになってます。
 朱月宵三郎なんかは、最初から超常現象が混じっていたから推理小説が看板だけでもあまり気にならなかったんですが。いや新城さんは推理だよミステリーだよと後書きで主張しておられましたが。
 まあ分量(原稿用紙三千枚、文庫六巻)の時点で一見さんは手に取りづらいんじゃ? ってのがあるんですけれど。それでも、もうちょっと背景のあれやこれやは切り捨てて欲しかったなあという所。それと、最後らへんかなりドタバタしてましたね。
 最初は群像劇っぽかったのに(少なくとも二巻か……三巻頭ぐらいまでは?)、だんだん笹浦くんがヒーロー格になり、それに併せて西がヒロイン格になり、他のキャラの行動とかはガンガンすっ飛ばされてしまった。ミツハシとかトウドウとかもっと見たかったよ! つかマスミってあいつなんじゃないの!? ちうか群像劇って一般に「多くてもメインは十人まで」って言われているのに、十五人とかやっぱ無謀だったよ新城さん! なんか脇役も「あいつなんだったの?」っての多いしね。あうおうおー。
 えーかように愚痴ばかりでしたが、面白くて、しかも惜しいと思うからこんだけ言ってしまうのです。一言感想ならば面白い! と断言して差し支えナシ。ただ苦言小言も多くなる。
 ……ううむ、しかし未見の人に勧められそうな感想になってないな。
 まーともかく、ここからはネタバレ感想を。各キャラへの感想と織り交ぜていきまっしょい。


徳永準/ジュン
 自殺をしようと思い立った、一応本作の元凶。その性質ゆえか、逃げ足だけは天下一品。実家が医者で、しかも母体保護法指定うんたらとか思わせぶりだったが、特に意味がなかったような……。
 ネットで知り合った〈17〉と心中自殺しようという、その動機が人助け。彼単体での自殺の動機がよく分からんまま、うやむやで終わってしまった気がする。それとも私が見落としているだけだろうか?
 水時計拷問から続く「雫にさえ耐えられない」の結論はいいとして、彼にとっての「雫」はなんだったの?
 あと〈死にかけ〉のじいさんは、何でまたこいつに拳銃なんて渡したんでしょうね、しかし……。
伊隅賢治/イスミ
 徳永が死ぬところを見ようと頑張ってた人。嫌いじゃないが、枯野透が死んだ時、「あの時救急車に乗っておけばよかった」と悔しがる所はさすがにムカついた。
 途中から行動過程がすっ飛ばされたフェードアウト組になり残念。
 そういえば初恋の人がミワサカ・カエデって……あの神酒坂と関係あるんですかね。ええ? あとファーストキスが姉とか、あの辺の話も気になる。歩乃果のリスカ痕にくちづけたり、なんかこいつだけ雰囲気が耽美寄りな気が。
在所惟信/ノブ
 ジェットスキーが出てくるまで「こいつって何のためにいたんだろう」とか考えました。最初にフェードアウトしてしまった人。なんだったんだよあの誘拐→遭難の流れは。美園さんとずっと漫才やってたあげく狼とお話しちゃいましたしね。
 でも新城さん的には、在所家には色々ドラマがあるようです。世間体を気にし続けた自分の生き方に疑問を持つようになったけれど、それをこそもっと書いて欲しかったものですね。
 ところで美園さんが産んだ子の名前が「マスミ(♂)」ってことは、藤堂君なんじゃないのかそれ。名前の音が同じなくせにスルーされているし、なんという消化不良。ちきしょうめ。
「エリさん」に向かって語りかける文体から、隠れ電波かと思っていたらああいうオチだったとは。
笹浦耕/ササウラ
 ザ・ヒーロー。どう見ても本作の主人公ですありがとうございました。最初はちょっと冷めたイマドキの高校生キャラだと思っていたら、「砂漠でみつけた水を撒く」話のあたりでピピッと気に入ってしまった。
 その後もものすごい推理力や洞察力の閃きを出し、ファブリと丁々発止のやり取りを繰り広げ、実に応援したい感じ。ただ、活躍しすぎて他の面子が(出番的に)割りを喰ってしまった形に。
 ……そういえば火事の後始末ってどうなったんだろう。数年後は元気に暮らしてましたが。
 ああ、あと主人公格のキャラだけどいじめたりいじめられたりの過去があるのは、なんつーか「らしい」なあって気分。
 彼がカラノ・トオルを投票に数えてくれたシーンは大好きだ。表紙でもこの二人だけ携帯持っているし、「繋がっている」んですな。
温井川聖美/サトミ
 なにげに一番好きなキャラ。女家族の確執によるドラマとかは少女漫画の題材にもよくありますが、そういうのはやはり女性が共感しやすいのかも? 何というか、彼女の妹に対する愛憎と、母親への諦め混じりの苛立ちやらなんやらがね。
 でも六本木のバー、例の『勝負』で、あのへんがばーっと片付いてしまったのは実にもったいなかった。どんなやり取りがあったのか、そこに辿り着くまでの聖美の心情とか。見たかったぞチクショー!
 本作では、彼女とおばあちゃんの「いい子だから」が個人的ベストシーンです。
枯野透/トオル
 超お人好しの、根っから善良だった少年。本作ではメインキャラ唯一の脱落者であり、三巻冒頭でいきなりお亡くなりに……。二巻読み返したら、「あっ」とか言っているし、うわああああ。
 まあ死んでも語り部として登場するわけですが、死人らしく直接現実に影響を及ぼさないのは安堵した。いや、そこまで時念度あげられるとね、もう苦笑せざるをえないというか。それじゃ自殺も軽くなりかねなかったしね。
 ミオくんの正体はラスト近くになって気がつきましたが、なるほど。「もしもーし」がすり込まれたのは君が原因だな。
 しかしまあ名前が暗示的ですよね。見るなり「ホトリの旧家かよ!」って。
渡部亜希穂/アキホ
 事の元凶その2。彼女がピケる、もとい徳永の携帯と財布をスったばかりに、自殺予告メールが送信されてしまったのでした。
 最初は苦手だったけれど、どんどん好きになっていったキャラクター。ファミレス脱出の所とか、全力で応援していましたよ。つうか巻が進むと、カラーピンナップでも「誰この金髪美人?」みたいになってますし。
西満里衣/マリエ
 恐らく本作でも人気が高いであろうキャラ。誰でしたっけ、各地で俺の嫁宣言が相次いでいるって言ったのは。
 二十四時間東京都内を走り回る物語でありながら、車椅子に乗った身障者という珍しいキャラクター。そして実際、ハンデを感じさせないガッツとファイトと行動力に満ちあふれた素敵な眼鏡っ子であります。
 でも途中から自己嫌悪と内省にまみれていくあたりは、笹浦同様、新城カズマキャラらしいなーっつうか森塚詩乃思い出すなあ、なんて。あ、それとやっぱり彼女がヘートビッヒちゃんなのね。
左右田正義/マーチ
 いわゆる、「マーチ死ね」ってやつです。ALRにボコボコにされていたらしいが、そのシーンは別に描写されて無くて、再登場したら顔面腫れ上がってただけっつーんで、なんかスッとしねー!
 とりあえずどこまでも不快なキャラでした。いやね、生放送に割り込んだあのへんでの独白でも「ほうコイツにもそんな過去が」とは思ったがそれはそれ、これはこれ。てめーは言ってはならない発言の数々をしたんだぜ……。
 何というか、一つ一つはどの人間にもあるんじゃないかっていう短所や悪意。でもそれをまとめて一個にブチ込んだ悪意の権化(でも当人は正義感の固まり。過剰かつ薄っぺらいほどの)。つーか女にトラウマでもあるのかコイツ。
折口歩乃果/ホノカ
 過去が気になる電波娘。登場時からして、初恋の相手であるジュンを救うため自殺を手助けするぞー! だし。
 彼女に関しては解せない部分が多いですね。だって母親、リスカ経験済みの娘から自殺に関する話題をメールされているのに、なんかいまいち脳天気な返事をしているし。あと「色(オーラ)」がなぜ見えるのか。
 あれは彼女の超常能力なのか妄想なのかぴんと来ません、どっちもありそうな感じですから(だってあんだけ超常現象起きてれば……)。カラフルなドラゴンたちはそれの延長線っぽいけれど。
 しかしレイプ(未遂)はちと鬱展開なんだぜ……後日談とか色々気になるなあ、本当。
藤堂真澄/トウドウ
 はたしてノブと血縁関係はあるのだらうか。
 枯野くん同様、名前を見た時キター! と思った人。藤堂組だ藤堂組だー、と。親戚に二重人格のシスターとかいねえかな。
 彼のパートは報告体で書かれているのでちょっと文が硬い。気がついたら髪を剃って丸坊主にしていたが、いつ切ったんだよ! いつでも切れるとは言っていたけれど「ちょっと思うところあって」のちょっとを書いてくりえー。
三橋翔太/ミツハシ
 最初にこやつのパートになった時は、いきなり平仮名だらけになって「うわあ知能がアレな感じだあ」と仰天していたが、どっこい頭は切れるのであった。喧嘩すると強いし、中々チート性能。
 プラスになるとか、一個だけいいことするとか、「生まれてくる時は二人、死ぬときは一人」とか。名言が多く、これも気に入っているキャラ。……なんですが、ファミレス脱出あたりからフェードアウト組にイン。
 あのバスジャックからどうやってこうやって集合にまでこぎ着けたんだかもうさっぱりですよ! ミツハシ好きだしもっと見たかったよ! あと緒方のやってたバーチャル家族って、ご老人らの依頼でやっているものなんか。
 ファラオさん=居なくなったミツハシの姉かと思ってたが、そんなこと全然なかったぜ!
私市陶子/トウコ
 もしやこの名前は「私 市陶子」というトリックかとも思われたがそうでもなかった。お嬢様系幼妻で、しとやかかつしっかり者。……と思ったら偽の記憶で自分も騙すサイコキャラ。しかしてその実態は……と。
 (元)女子高生妊婦という珍しい立ち位置のキャラなのは西同様。「先生」もちょっと出て欲しかったかな。あと彼女の母親との確執とか。つーかあのおばあさん、何で殺されたなんて言い方するかね。
 結果的に、警告を無視して水辺に行ったのはプラスに働いたなあ。
オサリバン・愛/マナ
 江戸っ子調新人アイドルで、アイルランドと日本のハーフという何だか変わった取り合わせのキャラ。まあ可愛いから何でもいいんですが。公園での西とのやり取りは良かったが、後はフェードアウト組入りして残念無念。
〈17〉/高遠未由帆
 途中まで、17って十五人の中の誰かかと思ってた……。
 まあ賢美説や未由帆説は前から出ていたけれど。それでも徳永にメールしたあの独白からでは、未由帆とは思えんがなー。「姉」について一切触れられないし、「しのぶさんとホントに姉妹?」って首傾げた。
 ただまあ、スレの指摘を受けて読み返すと、四巻最後らへんで、しのぶさんがトウコに「女として酷い目に遭った子」について話しているんですよね。これが彼女のことなんだろうけれど(それを思うと「せめて明日まで」と言い出した気持ちが分からんでもない)。
 しかしやっぱり、事件の後しのぶさんと妹のやり取りとか何も触れられず後日談になっているのが納得いかない。
高遠しのぶ
 いい人なんだけれど、妹のあれやこれやで最終的に微妙な気分になってしまった……。
 西、この人から笹浦を奪ってみないかね?
 それとしのぶさんのミドルキック、強すぎです。
〈死にかけ〉のじいさん&凪と波美
 もうひたすら、なんだったのこいつらとしか。とくせん&カガチは天竜川の治水にまつわる話ではって推理がありますが、ヨモギパンとモモパンとかねー。えらく思わせぶりのまま、結局何も説明されなかった。
 まああれだ、『狗狼伝承』で嵯峨明彦が話を聴きに行った三人ひと組の老女(真ん中の一人が急に若返る)と同じようなものなんだろ……うん。
ファブリ
 双子の件……うーんうーん。この人を狙撃したのは、まあジュラなんでしょうね。
 全員寝ているカラーで一人だけ起きている絵が怖すぎる。どう見ても全員ケア済みですサヨウナラ。
 洞窟ゲームとか、リアリティについての話とか、ネーミングセンスが世界名作劇場だったりと、実はこの作品に投影された「暗黒新城カズマ」なのではないか。なーんて思っています。
 そういえば光は、たった一個の光子が行ったり来たりして云々って話はマジなんだろうか。
 この人が登場した途端、「一人の少年の自殺を止める話」から「なんかヤクザと関わっちゃってマジやばいんですけど!」なサスペンスフルな展開になったんですが、この辺で本作の好き嫌いが別れそう。
 ファミレス大脱出は凄く盛り上がったんですけれどね。
 でも、その後からミツハシはフェードアウト組だし、笹浦vsファブリの構図が強調されて、群像劇っぽさが減っていってしまった。いや視点は切り替わりまくるんですが。なぜこーなった。
 しかしそれすらも、人身売買産業についてのネタが最後ボケちゃったというか。エピローグになってから「あ、そういえばピンクのケータイは?」みたいになってしまいましたええ。つか……売られた子たちってどうなるんですかね……ハハ。
ジュラ(馬橋茗子)
 この子も何だったんだ的キャラ。多分、枯野透のクラスメート。冬休み明けに号泣しているかもしれん。
 しかし、あの狙撃が彼女だとしたら(相馬さんのお年玉が、多分狙撃銃)どんだけ腕がいいのやら。
相馬
 言っていることは面白いがやはり訳分からんじいさん。〈死にかけ〉のじいさんと、訳の分からなさではいい勝負。ノブの一族とも因縁があるっぽいし。螺旋都市という単語を出しているから、識の関係者だったりするんか?
老婦人
 トウコに水辺に近づくなと警告したり、東京タワーに来ていたり、恐らく聖美のおばあちゃんの待ち合わせ相手だったりするであろう人。結局何者なのか分からんまま終わってしまった。……はぁ。


 後はまあ、ファラオさんはなんで漫画喫茶で号泣していたんだーとか。有働好きだなあとか。アレックスさんも何だったんだあれとか。えーいとにかく、キャラ多すぎやっちゅーねん!
 上記に書いた通り、すっ飛ばされたあれやこれやが色々あるんで、もっとその辺見てみたかったですねえ。惜しい。実に惜しい。この世界とこのキャラクター達がかなり気に入ったのに、もうお別れなんてなあ。
 まあ、年の瀬に読むには最高の本でした。はい。

*1:二冊しか出てないけどね。まあレーベルも富士見ミステリー文庫だしなあ。SI-NOは結構巻数かさんでたけど、とこれは余談も余談。