遠藤達哉『四方遊戯 遠藤達哉短編集』

四方遊戯 遠藤達哉短編集 (ジャンプコミックス)

四方遊戯 遠藤達哉短編集 (ジャンプコミックス)

 著者三冊目の単行本。基本的にどれも「強い主人公がゲスい悪役をぶっ飛ばす」お話ばかりです。王道を通り越してテンプレなんですが、キャラクターのかけあいや細々と挟まれる小ネタなどに著者独自のセンスが溢れている。
 斬新なストーリーや設定で見せるのではなく、王道のストーリーをクオリティの高い作画や筆力で魅せるタイプの作家さんだと思います。かといってストーリーがしょぼい雰囲気漫画というわけではなく、そこにキャラクターの力強い生き様やドラマがある。
 TISTAの「この世界は不条理な犠牲に満ちている」や、PMG-0の「すべての理不尽な歪みに〜」などを見るだに、無辜の人が犠牲になる「理不尽」と、それをぶっつぶす主人公の生き様に重点を置いている印象です。
 ジャンプの読み切りで拝見した時から「すごくうまいのになんで連載もらえないんだろこの人?」と思ってたんですが、そこは著者が一時やる気をなくしたりとかのが原因らしく……。すっかりチャンスを逃して七年。やっとこ連載したTISTAも打ち切り……。
 一ファン(作者名買いデフォ)としては、少しでも布教に務めるばかりです。
 ちなみにタイトルに遊戯とつくだけあって、オマケに双六がついているんですが、やけに作り込んであります。小ネタ好きな性分なんですかね。コマとかそのままコピーすると小さすぎて扱いづらいですが。

西部遊戯

 どお? 銃なくてもイケてるでしょ? 鼻血君!!
 西部劇×死亡遊戯(カンフー)のデビュー作。
 チャイナで武術の達人で美少女の主人公が、悪徳保安官のどら息子をぶっ飛ばします。主人公が激昂した時の表情とか、男の子の立ち位置とかは最後の収録されているPMGとの共通点が多い。
 臭いがダメで銃が使えず、徒手空拳にこだわる設定も、タニア(PMGの主人公)の原型っぽいですね。決めぜりふの「リセット」と「水鉄砲」とかも似た感じですし。

月華美刃

 子供は蹴るわ天帝たる私を侮辱するわ足短いわ顔汚いわ… 何様のつもりだこの下衆が!!
 初めて読んだ遠藤達哉。表紙のカラーが印象的でした。
 月の世界に平安時代の地球よりずっと発達した文明が存在し、そこの帝である主人公・カグヤが政変によって地球に逃げてくる。彼女を始末しようとする連中をぶっ飛ばして帝位を取り戻そうとする……というお話。
 カグヤがすでに半世紀以上生きているらしいことが台詞にあるし、月の民は地球人とは違う生命のようですね。はっきり説明されていないけれど。
 双六に右大臣左大臣ってあるのは、連載になった時出る予定だったキャラなんでしょうか。
 設定が貴種流離譚っぽくて、目的もとりあえず明確(クーデター派を一掃して月の帝位を奪い返す)だし、そのために何が必要か(帝に相応しい「民を思う心」を獲得し、使えば最強の伝家の宝刀を抜けるようになる)もはっきりしている。
 つまり連載に必要な話の骨格はバッチリグー。
 ただ、本来なら主人公の相手役ポジションの男キャラ・テンジが三枚目なのがどうかとw テンジはいい奴なんですけれどね。カグヤにこれから必要な帝たる心構えがなんたるかを示してくれる存在ですし。土壇場で侠気を出せる男前。ただし顔はへちゃむくれ。
 あと、本作の悪役では一番キャラが濃いですね、ハハナ・パープルシキブズ。名前も顔もしゃべり方も。他にも「大納言クラス」とか、敵の強さを示す指標なんだけれどネーミングが笑える。

WITCH CRAZE

 我が諱と我等が黒き血を汚した者に 血と灰の洗礼を
 現在、遠藤作品では唯一の男主人公作品。でも魔女ヒロインつきなので、やはり強い女性が登場します。しかしモルガーナが最初ニムエを見捨てようとしたのがイマイチ納得がいかんのですが。
 人助けをして傷つくのがイヤ的なのは伝わってきますが、それにしても最初の段階でさくっと見切りつけていたよなと(まあ最初だからこそ、とも考えられるかな)。
 とりあえず魔女ネタは好物。そんで主人公使い魔ですしね、まず設定が好き。しかし白黒だと表紙のカラーがちょっと映えないのは残念。
 しかし連載時は結構いい絵だと思ったけれど、TISTAとか見た後だとさすがに見劣りしますな。初々しいと言えばそれもアリか。ちなみにTISTAは絵だけでなく、映画的演出法やコマの流れがまた良い作品でした。

PMG-0

 死ぬんだよ!!! そんな事も分かんないのかッ!!!
 なにげに三銃士モチーフの混じった作品。PMGって略称タイトルがちょっとカッコイイ。
 作者も後書きで言っていますが、話の流れとか色々西部遊戯と同じような感じです。主人公が法側の人間で、同じ道の男の子を励ましたりとか。原点回帰と言われると確かにーと納得できるものがある。
 遠藤ヒロインはみんな強いというかふてぶてしいのですが(ティスタは例外)、タニアはその中でもダントツにふてぶてしいですね。茶を飲む姿が板につく。でも、初登場時のゴーグルは正直ダサいと思った。
 ちなみにこの作品、掲載時は結構作画がヘナチョコになっていて「あっれー遠藤さん時間なかったのか? 本当はもっとうまい人なのに! これじゃ初めて遠藤さんを読んだ人に本当の魅力が伝わらないよファッキン!」と憤ってたりしました。
 さすがに単行本になってそのへんが修正されていて一安心。でも後書きの解説によると「ヤサグレて漫画を全然描かなかったころ急遽掲載が決まった」という事情があったそうで……ああああ。だから連載とか売れるチャンスがさ……。
 あと、ジョルジュの台詞「おやつ代のためにだってブチ込んでやれるぜ?」って、掲載時は「オヤツ代のためにだって殺せるぜ?」とかだった気がするんですが、これは私の記憶違いなのか修正が入ったのか。
 ジョルジュはアホな犯罪青少年ですが、隻眼だったり台詞回しとか好きな敵キャラです。「我等に日々の金とクスリをお与え下さるイカした神様に乾杯だ!!」とか。
 にしても「理不尽な歪み」とか、TISTAに繋がる片鱗も見える作品ですね。タニアの「死ぬんだよ」というストレートすぎる叫びとか。


 早く次の連載が決まるといいなあ。