宮沢周『アンシーズ―刀侠戦姫血風録』

 着物もいいけどやっぱり男子たるもの巫女服かな(by俵屋力王丸)

アンシーズ 〜刀侠戦姫血風録〜 (アンシーズシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

アンシーズ 〜刀侠戦姫血風録〜 (アンシーズシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

 うーん、これは素晴らしい。
 第八回SD新人賞の佳作なのですが、設定が実によく出来ている。出来すぎていて、今後これをパクった作品が出て、しかも二つ三つじゃ収まらなくて、いずれそのジャンルを確立しちゃうんじゃないのってぐらい。
 話はいわゆるTS(性転換)ものの特殊能力バトルロワイアルなんですが、まず参戦資格=TSなので、戦う野郎が全員(見た目)美少女と華やかなことになっています。
 女の子が戦うってのはビジュアル的に映えるんですけれど、生物としての戦闘力は男>女だからそれって無理がある。だから義体だったり(ガンスリ)、死体だったり(屍姫)、ロボだったり(SMガールズ)といった理屈づけが必要になったりしますが、この場合は「男が女に変身して戦う」というものだから便利千万。
 さらに面白いのは、参戦資格にして特殊能力がチ●コソードってことですね。自分の中の男らしさとかプライドを武器にして抜く! すると美少女に変身してバトル開始! っていう。
 昔、スパダに送ろうかどうか迷っていて、SDスレをROMっていたんですが、ちょうどその頃「チ●コソードが受賞するなんてSDも末期だな」なんて言われていたもんです。
 アンシー=姫宮アンシー? ってことで、「ウテナのパクリ」とかさんざんやっかまれたりね。
 もちろんウテナ全然関係ありません。アンシーはunsheathe=抜刀するで、姫宮アンシーはギリシャ語由来。個人的にはun-she=女じゃない、説も捨てがたかったんですがねー。
 ちなみにチ●コソードなので、折られると女のまま。男に戻れません。つか世界も最初から女だったよーに書き換わってしまうので、社会的フォローまで完備です。性転換不可逆アリってのもまたポイントですね。
 業界用語がなんでもかんでも抜刀抜刀ってつけるばかりなのは、イマイチ適当な感じですけれど。特に抜刀空間と抜刀気。後者は男気とか侠気とかにしても違和感がないようなー。
 また、特に残念なのはアンシーが戦う理由というか背景。「刀競大武会」の説明が少々足らず、分かりづらいのが残念。
 参加しているのは舞台の町だけなのか? 全国にも抜刀空間に満ちた地域があって、そっちからも出場者はいるのか? そもそもエリア取りが大会での成績にどう影響するのか? 今はそもそも予選なのか本戦なのか? 大会の告知はいつどこでやっているのか? 開催期間はいつからいつまでなのか? そしてこれはいつから始まっているのか? などなどなど。
 あと、主人公のキャラもちと問題ですね。いわゆる気が弱けりゃ押しも弱い、大人しいタイプ、だけど「責任の取れないことはしない」というしっかりしたタイプ、という造型なのはまあ良し。
 そこまではまだ個々人の好みが別れる範疇ですが、クライマックスで急に切れて「全部あんたのせいだー!」みたいに叫びだしたのはいただけなかった。あそこに至るまででも結構グジグジ葛藤していて、いいからとっとと助けにいけよと苛つきかけていたというのに。
 まあそんな主人公を諭すヒカルさんはとても輝いていたんですが、彼女の株があがる一方主人公の株はダダ下がるという。「責任感が強いようで、実はそれが偽善だと看破され」たんだからそりゃテンパりもするんでしょうが、じゃあの言葉に胸キュンしたミツウさんの立場は……?
 で、さらに切れる前後で落差が大きいのもちょっとひっかかりました。急に切れて、諭されてあっという間におとなしくなって、冷静になって。おかげでかなーり流されやすい人格に見えてしまう。
 というか、一度「抜刀しない」って決めたのに、「指摘されて思い出す。そうだ、僕は抜刀したくないんだ。」はねーわwwwwと膝を叩いてしまった。どんだけ軽いのお前の決意。そんな主人公。でもモテモテ。
 まあ普通にしている分には、そんなウザイってほど酷い主人公ではありませんでしたが……。
 ただ、周囲のキャラは中々オイシイです。
 正ヒロインのヒカルさんはオットコマエの金髪碧眼(表紙の彼女です)、ロリ系の力王丸こと手芸部のリカちゃんは男の娘(魔法使いポジ)だし、ミツウさんはヤンデレ気味に主人公を愛しちゃってる感じで良い。あとは黒曜さんの中身が出てこれば良かったんだけどなー。ミツウさんが心酔してたっぽい生徒会長も、序盤で言及されただけだし。
 あと、ヨロコさんは続編でいずれ仲間になってくれると良いです。
 ストーリーは全体としてソツがなかった感じ。ヒカルさんが持ってた「余分な抜刀芯」とか、伏線もちゃんとしているし、ラストバトルの間も、「ヒカルさんの正体は!?」と気になる謎を後に残して引っ張ってくれる。
 あ……でも「日本刀」が「掘り出し物」ってことの意味はなんだったんだろう……。あと終盤になって突然化け物が出てきたのはそりゃないぜーな気分でいっぱい。命がけの抜刀がまさかそういう方向に作用するとは。
 また、一部に校正ミスなのか文章がおかしい感じの所がありましたね。ミツウさんが最初なぜか「赤い髪の女」って表記されてたり、ヒカルがトモの胸を揉むシーンで「慌てて見下ろせば」「慌てて目を開けた瞬間」「目を見開いて胸元を見れば」と短い間に連続して書かれ、お前何回目を開いているねん、ってなったり(いや最後のはまだセーフか?)。いや重箱のスミですけど。
 色々言いましたが、今後がすごく楽しみだし、続編は是非追いかけたい作品です。
 ヒカルさんは主人公にアンシーとして戦うかどうか、戦うとして生徒会(ヒカルたちと対立している大手サークル)につくかヒカルたちにつくか、それとも他のサークルにつくか、と言っていたんですが、生徒会以外のサークルが全然出なかったのが残念でしたし。正統派チャンバラじゃなく特殊能力バトルなので、もっとガンガン色んなキャラが暴れるのが見たいぜ。