篠房六郎『百舌谷さん逆上する』1・2巻

 ツンデレを恐れぬならばかかってらっしゃい。足腰がガタガタになって、もう二度と立ち直れなくなるまで、この私が断固として、壊滅的に愛し尽くしてやるからね

百舌谷さん逆上する 1 (アフタヌーンKC)

百舌谷さん逆上する 1 (アフタヌーンKC)

百舌谷さん逆上する(2) (アフタヌーンKC)

百舌谷さん逆上する(2) (アフタヌーンKC)

 篠房六郎はいった、どーなってしまったのだろう。
 ……「ドMのおっさん」が画面に出てきた時は、ああやっぱりシノフーだ、という安心感を得ましたが。
 途中でつまらんくなって(ついていけなくなって)『ナツノクモ』を切った私だが、今作はデビュー以来続くほの暗い観念的な部分が、笑いと萌えとで見事にくるまれて、大変読みやすく、また純粋に面白くなっている!
 概要は『ツンデレ』がヨーゼフ・ツンデレ博士型双極性パーソナリティ障害という病気として存在する世界で、金髪ツインテールツンデレの美少女が小学校に転校してきたよ! というもの。
 これだけ聞くとまるっきりギャグなのですが、ツンデレは全ての感情が逆なワケじゃない、怒っている時は怒っている。それなのに萌えという言葉でバカにするな!(大意)という百舌谷演説に始まり、「ツンデレという病気」をシリアスに描写している。
 ツンデレの百舌谷さんは、好きな物に対して暴力を揮ってしまう。どれだけ可愛くてもぬいぐるみをズタボロにし、どれだけ愛らしくても犬猫を虐待しないために、犬猫から全力で逃げ出す。
 イソップ童話「すっぱい葡萄」の話に対する解釈や、死んだ猫を拾って帰った話。何というか重い。引用した彼女の台詞も、それを発した時の心情を思い返すに読者の胸を切り刻む切なさ。
 ところが!
 この作品が新手の闘病記に留まらないのは、百舌谷さんの強烈な魅力にあります。何と言っても百舌谷さんが可愛い。樺島くん(主人公の微笑みデブ。お人好しでいじめられっこで多分M)を活き活きといぢめたり、暴走する自分をなだめようと壁に頭を打ち付けたり、ストレスを発散すべくサンドバッグ殴りまくったり、変装したり、怒ったり自己嫌悪したり強がったり逆ギレしたり、何とも目が離せない。
 こんだけ心をわし掴まれたヒロインは、ちょっと久しぶり。彼女が自分の感情に振り回されててんてこまいな姿を見ているだけで幸せにお腹いっぱいになれます。
 あと、新しく今回はパロネタの盛り込みも目立つ気がしました。バキネタを解する小学生女子って一体w 「牛股師範のカジキ」とか、なんか秋田系のネタが多い感じ。「祝ってやる」は実話だったかコラだったか。
 あ、あと珠美さんは死者を出す前に看護師を辞めるべきだと思います。
 さて。ツンデレってことは、ようするに「デレ期」に入れば、百舌谷さんは好きなものに暴力を揮うこともなく幸せな状態になれるんじゃないかなーと思っていたんですが。
 二巻の最後の方でそれっぽい状態になってきましたけれど、樺島くんのナレーションがメチャクチャ不吉です。現在三巻をbk1で注文して到着待ち。ああ、早く続きが読みたい物です。