小林めぐみ『魔女を忘れてる』

 四年経った。たった四年なのに、なんと長い年月なのだろう。なにもかも変わっていたのに、自分だけ何も気づいていなかった。辛いあのころの記憶を忘れようとした。そして、忘れた。
 忘れた分、記憶は変化することも成長することもなかったのだ。痛いままずっと保存されて、こうして今、彼を苦しめている。

魔女を忘れてる (Style‐F)

魔女を忘れてる (Style‐F)

 小学生時代に「倒した」はずの魔女が帰ってきた──存在すら忘れていた友人から告げられることから始まる、夏の物語。
 幻想ミステリーと思って読んだらホラー(ファンタジー)だったお、な感じの一編。作中、明らかにトリックでは説明のつかなさそうな超常現象が起きて、地の文で幻覚とかばっさり否定されてまあすぐ諦めたんですが。「それはそうとして、真相はきちんと明らかにされるんだろう」と思っていたらよく分からんまま終わってしまったとそういう話。
 大浦ちえりの母は結局登場しないし、魔女がどうして「灰になって消えた」のかも分からんし……と。まあ一応オチはついているんですが。作中、主人公を始め登場人物たちは親とうまく行っていません。主人公は父親に殴られ、憎みながら育ち、友人たちは逆に自分たちに歪んだ愛情をそそぐ母親から束縛を受ける。
 このへん、主人公と他のキャラで差別化が見られるんですが、オチを見ると「魔女」ってのは、全ての母親を指しているんだろうなと。ただ、この作品は『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と立て続けに読んだので、虐待の話題部分では手ぬるく感じられました。
 まあ虐待されたのがこっちは男で、あっちは女ってのもありますが。古谷姉妹は虐待された少女分類でいいのかなあ。元々、児童虐待テーマの本を探していて、たどり着いた作品だったので、期待しすぎたのかもしれません。
 現実だと思っていたことが幻覚に、幻覚だと思っていたことが現実になる流れは面白かったかな。夏休みが舞台で、終止不快な暑さや臭さが描写されていて、全編気怠い雰囲気なのがまた、目眩に似た幻惑感を誘う。
 あと気になるのは、キャラクター。主人公はまだしも、建部家の状況と、そこに入り浸っている古屋双子の関係が……。近親とか3Pとかね。双子のキャラクターはこの作品で最も現実感がなく思えました。ライトノベル的な電波キャラなんですよね、その言動がもう。双子であることがアイデンティティで、個人であることを放棄しているキャラ性は興味深かったんですけれど。結局歪みを自覚しているのは、彼女たちの相手をしている建部君だけですし。
 まあ、登場人物たちが歪みながらも強い友情で結ばれている感じがあったのはいいです。福井くんの仲間はずれ具合は可哀想すぎたけど。で、自分たちっておかしいんだなって自覚しながら、自分たちの親も自分たちも歪んでいると気がついてしまう辺りとかは結構切ないかも。
 読んだ直後に、ちょうど興味を持っているっぽいかたから「面白かった?」と聞かれた時には言いよどんだ。そんな作品でした。つまらない、面白くないって断言するほどじゃないけど、うーん、と唸ってしまう。極東少年は好きだったのですがー。
 食卓にビールを、でも読みますかねえ。