桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

「子供に必要なのは安心、って、担任が言ったんだよね?」
「うん」
「だけど、安心って言葉の意味、わかんないね」
「そだね……。あたしにもわかんないや。安心できたら幸せなのかも、わかんない」

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

 えー画像の通り、角川版ではなく富士ミス版砂糖菓子。去年、スニーカー投稿への原稿書くために、参考として買っておいたんですが、そのまま積んでいました。bk1で購入不能だから、今は手に入れにくいのかな? 漫画版もちょっと気になる……。ビリー・ミリガン注文して、それが来るまでの穴埋めに、やっと崩せました。
 桜庭一樹といえば、『GOSICK』を一巻の序盤で投げて『少女には向かない職業』しか読み切っていない私ですが、この作品はGOSICKと同じ富士ミスでも、内容は少女〜のほうなんですね。あっちは女子中学生が人を殺す話でしたが、こちらは女子中学生が殺される話。海野藻屑という酷い名前を付けられた、可哀想な女の子と友達になった少女が、山に登ってバラバラ死体になった彼女を見つける。
 ……ネタバレすんなと言われそうですが、この「オチ」は物語冒頭で明かされるので、読むぶんには問題ないっす、はい。
 あ、未読ですが「青春(子供時代)は戦争だ」ってテーマは『推定少女』と共通していますね。
 ラノベにしろエンタメにしろ、フィクションにはある程度ハッピーエンドが求められる。
 ラノベで後味の悪い話やバッドエンドを書くと、作者の独りよがりとして糾弾されることも多い(実際、読者が気分悪いだけで、楽しいのは作者だけって鬱作品もあるだろうし)。
 ただこの作品は、冒頭で「この可哀想な女の子は助かりませんよー」とアナウンスを入れているので、読んでいる最中、読者はあらかじめ諦めておくことが出来る。覚悟が出来る、と言いかえてもいいだろうか?
 それをズルイと呼ぶか、技巧と呼ぶべきかは迷うところだ。
 自分を人魚と言い張り、甘い嘘の弾丸をぽこぽこ撃って、やっと現実とのつじつま合わせをして生きる海野藻屑。
 母子家庭で、兄も頼れず、早く大人になろうと家事を切り盛りするリアリストの山田なぎさ。
 少女たちの友情物語、ただし暗黒の青春。というところは、やはり『少女には向かない職業』と共通している。どこへ行ってどうやって暮らすとも考えず、ただ逃げようと言ってしまえるのは、やはり十三歳の暴走だろうか?
 オチを知っている読者の目の前で、主人公のなぎさは藻屑とともに私たちの心胆を寒からしめるやり取りを繰り広げる。バラバラ死体を作るための鉈、当てちゃいけないクイズ、消失トリック……。まあいくらかは、こちらが早とちりしてハラハラしてた部分もありますが。
 過酷で悲惨で救いのない、アドゥレセンス・サヴァイバル。生き残った子供だけがオトナになれる。けれど生き抜く気がなかった一人の戦死者がかつて、いた。
 キャラクターは、リアリストなぎさはまだいいとしても、現代の貴族たる兄・友彦や、あまりに奇行の激しい藻屑を始め、ラノベキャラと割り切るにはやや電波的でエキセントリック。
 お兄ちゃんは結構、都合よく解説役になってくれた感じですしね。なんで引きこもり卒業できたのか(そもそも引きこもりになったきっかけはなんだったのか)、あのピンクの霧はなんだったのか、ちょっとよく分かりません。
 まー粗を見つけようと思えばいくらでも突付けるでしょう。クサイ、痛い、と称することも出来るかもしれません。が、これは好き。短くてさくっと読めるし、女子中学生の一人称なので文体も軽い。
 ただ、思春期のよく分からん焦りとか混沌とかぐちゃぐちゃして自分でも判別のつかない感情とかはうまく描き出されていると思う。って言っていると白倉由美を思い出しますが、あのへんからもっと自己陶酔を抜き出して激しくした感じかも。
 漫画版は絵がいいって聞いたので、そちらもいずれ手をつけてみようかと思います。