木村暢『動戦士ガンダムOO (2)ガンダム鹵獲作戦』

 当方がアレルヤ贔屓なのは仕様です。

 ノベライズ第二弾。今回はガンダム鹵獲作戦・三国合同軍事演習・トリニティ出現から修羅ハムまで。最後に疑似太陽炉(in南極)も。前回より分量も増え、インターミッションなどでアニメにはないシーンも追加されていますね(いや、二つはアニメでもあったけど、最初の「80年前の木星」だけオリジナル。あの方ってイオリア?)。
 読めないことはないけれど、相変わらず文章はあまり巧くなくて困る……。でも、ルイスと沙慈の悲劇はそれなりに盛り上がったなあ。ただ、連載小説でもないのに、シーンに新たにキャラが登場するたびに、繰り返し肩書きとフルネームを書くのは止めて欲しい。リヒティとかリヒテンダールやのうて愛称でもいいような気がするし(同様にクリスティナよりクリス表記がいいなあ)。


 一章・鹵獲作戦。あの双方向通信装置って、撒いてからトレミー発見まで一週間もかかってたんですね。
 クリスの台詞「早く来てアレルヤ」にティエリアの台詞まで追加。ぇー。
 ロックオン視点でのフェルトが凄く素敵なヒロインに見えてきました。うーん、確かに理由も原因も分からず、ただ両親が「死んだ」としか聞かされてないって辛いわな。健気無口少女。あれ、一番ヒロインっぽくね? フェルト。
 ティエリアvsソーマ。テレビ版よりソーマが強く見えてしまう。あと、ティエリアってティエレンの旋回性能計算して撃っていたんですね。超兵には通じませんでしたが、さすが新型。……その新型の性能を偵察するのはアレルヤの任務だったわけですが、一番悪い人選だったなー。アレルヤ以外なら頭痛起きないから、問題なく偵察できたしステーションの事故もなかったという。まあ、でなきゃドラマも生まれないけど(笑)。
 ちなみに超兵仕様ティエレンは、アレルヤも施設時代に見せられていたようです。しかしタオツーのカラーリングって「紅梅色」なんか。鉄人桃子なんだから、素直に桃色って言おうよ。
 ハレルヤによるミン中尉虐殺ショー。夕方五時台ということを意識して削られたグロ描写が、小説には詰まっています(四番艦作業兵、南無)。おおかたはハレルヤによる想像(予想)でミン中尉がどんな酷いことになっているか描写されるんですが、最後に断末魔まで追加。あーあ。
 撤退後のソーマと中佐が哨戒中のユニオン軍と遭遇し、ステーションまで送ってもらうオリジナルシーンが追加。ソーマが亡くした戦友を思って泣いている(と思われる)場面もあり、人革好きには堪りませんね。
 エミリオ・リビシという名前が出てきました。後のビリーの言「恋人ができたという噂」と合わせて考えると、スメラギさんは過去の失敗で恋人=エミリオを死なせてソレビに入ったってことか。なんか二期では彼女、とうとうソレビ辞めちゃったようですけどね。


 二章・アレルヤ。キタキタキター!
 体中を機械で改造され、脳にメスを入れられ、投薬を施され、極限状態での耐性テストを繰り返されて造り上げられる兵士を超えた兵士。
 いやあ、ついに超兵の詳細が出てきて俺歓喜。……ま、今回の場合でもまだ物足りないんですけれどね。相変わらず「非人道な人体実験」で一括りなのは変わりないし。ああ、あと超兵の実験って改造とイコールなのですね。いかに改造するかって手段にはまだ模索状態で、それを探るために色々実験しているんだと思っていましたが、機械式にできるくらいには、一部の方法論は確立されているらしくて意外。
 でも気になるんですが、改造って麻酔ちゃんとしてるんですかね? 脳量子波干渉の描写「麻酔なしで頭皮を剥がされるような」という、そんな経験をしたことがありそうな口ぶり、回想での「直接神経に触れられた時の悪寒と苦痛」、「呼吸もままならないほどの苦痛」からすると、やっぱなさそうなんですけれど、明言はされていない。麻酔がないのが当たり前という間違った常識でも持ってしまっているんだろうか……。
 機関の子供たちのことは「楽しいことも嬉しいことも知らず」と言っていますけど。機械で体を弄くり回される、のイメージがイマイチ物足りないんですよね。ナノマシンの注入とかするんでしょうけど、んー機械腕による手術とか? あまり細かいこと設定してないんだろうけれど。まあ、爆撃に行った時に、研究員が見捨てていった頭に機械付けられた子のよーな感じですかね。
 ぱっと見て一番辛そうなのは、やはり極限状態での耐性テストでしょうか。極限ってついてるし。雑誌の記述で「限界を超える辛い目に遭い続けた」とあるから、耐性テストってのはいかにもそれですね。また、超兵の脳手術でアレルヤは過去の記憶を失ったそうですけれど、記憶に影響あるってことは、海馬・シナプス・大脳皮質と脳量子波は関係してるんかいな。
 にしても失敗作の処分が薬殺とかじゃなく「毒殺」なんですが、食事に混ぜるんでしょうか。注射器でぷすっとかガス室にぽいってイメージだったんですけれど。食べるまで生きるか死ぬか分からない食事……嫌すぎる。
 しかし10歳の時点で耐性テスト受けさせられるくらいまで改造済まされているんだから、どんだけちびっ子虐げてんだよ研究所って感じです。
 超人機関脱出のくだり。廃棄寸前に仲間達と協力し合って小型貨物船を奪って宇宙に逃げた。しかし追撃隊の手で操舵室が破壊され、追っ手を振り切るも航行不能になった。漂流する宇宙船の中で何日も身を寄せ合っていたが水と食料が尽きかけ、空気循環システムが異常をきたして酸素が激減した。
 アレルヤは弱音を吐く仲間達を慰め、このまま仲間ごと死んでもいいと思ったが、ハレルヤが全員を射殺した。脱走して、でも失敗して、仲間と一緒に餓死or窒息死……それすらも機関に処分されるよりは「よっぽど自由な死に様」か。
 さて、アニメ版と同じような葛藤を、小説ならではの細かい描写と共にこなして、アレルヤは超人機関への攻撃を決意します。展望台に刹那出ねー。
 そして、自らの過去と向き合おうとするアレルヤを、初めて認めようとするティエリア。評価に値する人間=ガンダムマイスターってあたり、ティエリアはなんか視野が狭いような(まあ今更か)。あの目が光るのは電子的なものなんですね。
 全球に進入するキュリオスを見て指を指す子供。あのコロニー内に、超兵とは別に普通の子供が住んでいた(らしい)ことに驚きです。被験者の子も、そういう子がいることすら知らなさそう……。アレルヤも施設にずっと閉じ込められていて、コロニー内の様子は知らないし場所も分からん、と(でも施設自体は頭の痛い方向に進んで発見)。
 脱走の際に、仲間たちとともに「もう二度とこんな所に戻らないぞ」と言った自分が、今はガンダムに乗り、施設を破壊するため戻ってきている。うーん、切ないやら皮肉やら。そして始まるハレルヤとアレルヤの問答、そしてアレルヤの意図を知った子供たちの恐怖と、「殺さないで」という懇願が流れ込む脳量子波干渉。直接それじゃあ、そら覚悟も折れるわ……。
 アレハレの会話はアニメでの子アレルヤとハレルヤの対峙という演出は出ませんでした。代わりに、脳量子波により、人を殺す実感を直接脳で感じる描写に。こういうのは小説ならではでいいですね。続くスメラギさんとの会話とか。お酒をもらいに行くのは同じだけど、呑む前にアレルヤが心情を吐露して、それが中々興味深かった。
 体をいじられたこと、脳を改造されたこと、動物を見るように自分たちを見ていた大人の目、脳天をつんざくような激痛、呼吸もままならないほどの苦痛、仲間が毒殺されたのを見て自分ではないと思った汚い安堵感、何も感じないようにと無気力な目をした少年の頃の自分……
 自ら手にかけた同類たちの命が、一つ一つ消えていくたびに、自分の忌まわしい過去と記憶が消えていくようで、安心していたと語るアレルヤ。つまり、そりゃ、「施設への復讐」なんじゃないかな。そんな自分をひどい人間だと自嘲するアレルヤと、「そうよ、私たちは稀代のテロリストだもの」と返すスメラギ、そして「そのうち分かるわ」でエンド。


 三章。三国合同軍事演習の始まり始まり(準備編)。
 なぜか数ページに渡って語られる、リヒティ恋のアプローチ作戦、対象はもちろんクリス。なにげに、シリアス真一色だった二章のパロ混じり。例の死亡シーンへの伏線が着々と出てるねえ。ただ、クリスはラッセとかイアンとか、男どもが下着姿でトレミー館内をウロついている姿を目撃したことがあるのでしょうか。
 ロックオン兄の過去の思い出、ソーマと中佐、……といったシーンを挟んで、お笑い担当・コーラ降臨。過去の失敗にはこだわらないが、過去の栄光にはこだわる。そして立ち直りも切り替えも早い男。描写文からしてコーラが笑えるキャラになっている。おまけに、遅刻しておいて、拍手で歓迎されると思ってるし(もちろん結果は、大佐の鉄拳がお出迎えです)。しかし。
 何より、あの冷徹に人を見下すような強気な目が堪らない。
 って、コーラよ、お前もうマゾ確定だぞ。
 戦闘開始後も、コーラの思考は優秀なる戦術予報士カティにもトレースできなかったとか、自称エースパイロットだと思われているとか、さんざんな言われよう。ただ、大佐がコーラの存在にリラックスして「いるだけで役に立つ男」って評価しているのにびっくり。
 ソーマ、ガンダムに対する感情は「私はおまえが大嫌いだ!」と超ストレート。まあ、無理もないんですけどさ。被験者の子らは弟妹のようなもの……うむうむ。ステーションでの暴走はお互い不慮の事故だけどな。内面の描写ができるからか、アニメよりソーマは感情豊かですね。ただ「大嫌いだ」はストレートすぎて、わりと子供っぽいような。18歳でしょあなた。……2期は22歳のはずが、あまり変わってなかったしなあ。
 バーで逢瀬、スメラギとビリー。そういや5歳違いだっけこの二人。スメラギさんは15歳で大学に入り、二年で全ての単位を取得、で、今はアレ……昔神童今うんたらってやつですな。スメラギさんが凡人ってわけじゃなく、人より能力はあるけど何か決定的に「弱さ」がある感じなんですよね。しかしビリーの初恋がスメラギって、三十路童貞説がますます信憑性を帯びてしまいました。


 四章。軍事演習本番。
 例え罠だと分かっていても、ソレビはその行動理念に従って、介入しないわけにはいかない。が、介入したとしても助かる確率は低く……。結果、敵の大物量作戦に耐えて、鹵獲行動に出た瞬間、その隙をついて逃げるという危険きわまりない賭をすることとなりました。
 ティエリアと刹那が待機していたのは、できればミッション終了次第、ロックオンとアレルヤを脱出させるためだったのですが、思ったより相手の対応が早く頓挫。改めて、砲撃の中長時間耐えることがどれほど苦痛であるか、このミッションがどれほど危険だったのか、小説版はよく分かっていいですね。しかも三国家群は、砲撃を二、三日は続ける用意があるとのことで、スメラギさん……これ、マイスター、死にます。
 鹵獲されたガンダムコクピットから引き摺り出され、ソレスタル・ビーイングの全容を暴くため自白剤を大量に投与され、調査という名の拷問を受けることになる。そしてぼろぼろになった体を衆目の前にさらされ、最後には処刑される。三国家群による世界平和というプロパガンダの材料として。
 アレハンドロが語る、鹵獲された場合のマイスターの運命。分かっちゃいるが、ハッキリ言われると怖いね。
 始まる対ガンダム鹵獲。ティエリアが使われた謎のリアルド新装備はリニアマグネティックフィールド。強地場によって動きを封じられ、中のティエリア電気椅子に座らされたよーな痛撃を喰らっています。むろん、コーラは同情なんてしません。
 ジョシュア、初登場で故人。いやまあ、オーバーフラッグス隊の結成時に、飛行するフラッグに乗ってて、ダリルが名前言うんですけどさ。ちゃんと死ぬシーンが書かれず、ばーっと説明で流される。ハムもドライに流すし。
 そしてグラハム・オン・ステージ
 卑怯者と思わば思え! これだけの戦力……いわば、キミのための舞台を整えたのだ。イヤとは言わせん。
(中略)エスコートなどという言葉では生ぬるい、本番で行かせてもらうぞ。そうだ。
「抱きしめたいな、ガンダム!」

 ちょっとかっこいいかと思ったが、「本番」の一語で台無しな気が。続く倒れたデュナメスの形容では「砂の上に横たわる肢体」って、おーい!?
 これが、私流の愛のベーゼだ、ガンダム
 アホだ、このひと。
 もうハムが「ガンダムじゃないと※たないんだ」と言っても、誰も驚かないと思います!


 五章。前章にてマイスターを救出したトリニティチームが、トレミーを訊ねます。
 初対面の印象は最悪。つうかトレミーにほとんど何しに来たんだって感じですね。
 ヴェーダを神のように信仰し崇拝するティエリア。なんとなく崇拝する聖母とかそういう風に見ているイメージだったのでびっくり。まあそんな彼にとって、トリニティがよく写るはずもなく。
 トリニティに対するプトレマイオスクルーの様々な感情、疑惑、嫌悪。
 そして彼らの行動によって起こる、世界中の悲劇──沙慈とルイスの悲劇。
 刹那がついにトリニティに刃を向け、何者か(笑)によって疑似太陽炉が流出させられたところで、終了。なんかもう次巻で終わりそうな勢い。絹江姉さんは、死亡フラグまだですかねー。ルイスがああなっちゃったから、早いだろうけど。