西門佳里『鍵の猫―Niki’s tales』

 ……ぼくがぼくになれないから!
 分かれたままじゃ駄目なんだ。ぼくはちゃんと、ぼくにならなくちゃいけない。

鍵の猫―Niki’s tales (講談社X文庫―ホワイトハート)

鍵の猫―Niki’s tales (講談社X文庫―ホワイトハート)

 ン年ぶりのホワイトハート文庫。地元のちっこい図書館にゃ、少女小説がたんとあって、俺もよく読んだもんだ。コバルト文庫とかティーンズハートとか。封殺鬼がいっぱいあったし、小野不由美もそこで知った。悪霊シリーズの挿絵が……なんか、凄い(あまりよくない意味で)。リンさん好きでした。続編でるのか? あれ。十二国記は新版のほうを持っているのですが、山田さんの挿絵も素敵だ。皆川ゆか運命のタロットシリーズ、長かったなあ。
 で、ホワイトハート。内容は少女小説でなく、猫を主役にしたメルヘン寄りのファンタジー。あるいは、寓話に近いお話です。
 タイトルの「鍵の猫」とは、あの世に通じる扉を開く鍵を持った、特別な猫のこと。幼い身で鍵猫の後継となった主人公・ニキは、その影響で記憶を失ってしまい、悩みながら鍵の役目を果たそうとします。
 わりと恣意的に作られた感のある世界で、猫は死者を導く「死」・鴉は還ってきた魂を運ぶ「生」。輪廻転生するのは人間の魂だけで、それを司る鴉と猫にだけ、人と同じ豊かな情緒がある。だから寓話、童話的。
 話はうまく纏まっていて、あーそういう伏線かー、とスッキリ納得できる。あまり派手に感動させたり、不思議ワールドが展開するわけでもなく、まったり進むのだけれど、子猫のニキが見る世界の美しさと、それを描く作者の表現力に注目したいところ。
 よく、女流作家ならではの感性〜っというキャッチを見かけるが、これはそのテのフレーズを当てはめたくなる。描写文もそうだが、語彙選びが涙腺の妙な部分を刺激する。感動するというのとは少し違って、児童文学を読んだような、読んでいたころの自分を思い出すような、けれど懐かしさとも微妙に違う感覚。普段読んでいる、ラノベや一般文芸とはまるで違う作品の空気に、なんだか癒されます。そう、ああいう種類の作品の、語彙選択パターン……。まあその辺は、冒頭数行ですぐ分かります。
 主人公のニキは、まだお母さんのオッパイも恋しい、恋愛感情なんて分からない、ちっちゃな黒い仔猫。人間で言ったら、小学生どころか幼稚園じゃないかってとこでしょうか(それにしちゃしっかりしてますが、まあ鍵猫だし)。それを導くのは、やたら美形な灰色猫・隼斗。隼斗から鍵猫の心構えを教えて貰いながら、関わってはいけないと教えられた対極の存在・鴉とニキは出会い……という具合に物語は進みます。
 最後は収まるところに収まるんですが、将来芽生えるであろう三角関係の予感、にぎやかな「ねぐら」など、続きが気になる要素を湛えて物語は終了します。でも、続編出てないっぽい……残念。同作者の犬神遣いシリーズでも読むか?