アンファン・ネ・コアフェ

 魔女ってのは木の股からではなく、人の股から生まれて来るそうで。それは昔、フランスで胎盤を頭につけて産まれてきた子をEnfan ne' coiffe'. と呼んだのがそれなのだとか。魔女の赤ちゃん。この手の話は文化人類学……うーネットで検索してもあまり見つからないわ。言葉それ自体は「衣を纏った子供」「かぶりものを付けて生まれてくる子」とかになる。呪われた子、生まれてきてはいけなかった子、誰にも望まれず生まれてきた子だと。
 確かクルースニク(吸血鬼と戦う力を持った人間)も、白い羊膜に包まれて産まれてきたと思いますが(赤い羊膜なら、吸血鬼クドラク)。関係あるんでしょうかねっていうかありそう。あれか、弁慶が生まれてきた時、すでに歯が生えそろっていましたとか。
 普通ではない生まれをした者のことを、日本では古来「化生(けしょう)」と言いましたが、化生のものってのは、元から妖怪のたぐいである狐狸にも使われます。ので、普通じゃない生まれ方をしたものは、同じ人間とはみなされなかったんですなー。双子とかも珍しいから疎まれたりしたし。
 変わった生まれをしたものとしては、忌まわしい話もあります。
          アンファン・ドゥ・ル・ピュニシオン
 罰あたりっ子Enfart De La Punition.
 ポール・フェバールというひとの、同じ名前の小説に出てくるのですが、実話を元にした(という事になっている)作品。恩知らずの男が、処刑見物が大好きな妻のために、恩義のあった聖職者の死刑執行を買って出た。妊娠していたにも関わらず、ギロチンの処刑なんぞ見ていた妻は、その聖職者の処刑と同時に娘を産み落とし……とまあ、聞くからに業の深い感じの経緯をたどって、罰あたりっ子は生まれたのでした。
 その罰あたりっ子自身には不思議な力は何もないというか、むしろ白痴で、気がふれていたのですが、それこそが神様が罰あたりな夫婦に遣わした、「罰の子」だったのです……。興味のあるかたは、図書館なので探してみるとのいいですよ。短い話ですぐ読める。


 呪われた子供の話はいくつか見つかるんですが、逆に祝福された子供の話は、あまり見つからないんですよなー。俺の無知寡聞やもしれませんが。まあ、アンファン・ネ・コアフェには「大幸運児」という怪しげな肩書きもついているので、呪いもまた祝いって事かもしれません。
 呪いや祝いは、ようするに自分の力じゃどうにもならない運命みたいなもんでしょう。それは、散文的な意味じゃなくて、もっと実際的な意味で。つまり、生まれた時代、地域、家庭、血筋。先の罰あたりっ子も、両親の行いがその経緯にあったわけで。まあ、それで気のふれた子が生まれたのは、怪異だったのですけれど。本人には何の責任もなくても、周囲の環境や親の行いで、「上にものをかぶせられる」事はあるんじゃないですかねー。昼メロ的なものから、宗教的なことまで。ね。