清野 静『時載りリンネ! 』1

時載りリンネ!〈1〉はじまりの本 (角川スニーカー文庫)

時載りリンネ!〈1〉はじまりの本 (角川スニーカー文庫)

 ヒロインのリンネが可愛いという評判を聞いてましたが、なるほどこれは可愛いですな。
 見たことあるような感じなんだけれど、既知感じゃなくてノスタルジックな感じです。なんだろう、少女漫画とか、少女小説あたりの元気系主人公にいた気がしますよ。あるいは児童文学とか。
 物語は、主人公・久高(くだか)の隣に住む幼馴染・リンネが「わくわくするような冒険がしたいな」と言い出した事から始まります。小学校六年生の、ひと夏の冒険。
 ヒロイン・リンネは時の一族であり、普通の人間とはちょっと違う能力を持っている。「冒険」の中で主人公たちは新たな時の一族に出会い、そして彼ら「時載り」が恐れる上位種族「時砕き」が登場してから物語りは加速します。前半のゆっくりした進行もノスタルジアでよかったんですが、時砕きが出てきて能力バトルっぽくなるあたりからのが好きですね。
 時載りの基本能力は「時間停止」なのですが、異能力バトル系ではたいてい最強ランクのそれが標準装備なので、『リンネ』は世にも珍しい『時間能力バトル』となります。リンネとルウ、二人の時載りが対決した際の「いかに時留めを操るか」というくだりは興味深く読めました(炎の周りの空気だけ止めて火を消すとか)。
 時間異能ものでは、富士見ファンタジアの『狗狼伝承シリーズ』(新城カズマ)がありますが、あちらはタイムスリップ物の色も濃い。ですが、『リンネ(1)』*1ではタイムスリップの要素はほとんどありません。「時砕き」は普段歴史に潜むそうなので、時間を自由に行き来できるっぽい事は言っていたんですが、主人公たちには遠い話のようでしたし(まあ、これからはそうもいかなくなっていくのでしょうが)。
 また、この作品が変わっているのは、「時空系異能」に「読書」を組み合わせた点ですね。時間停止の第一条件が大量の読書ですし、何より読書が時載りの栄養源になっている。その繋がりでバベルの塔が(名前だけ)出てきたりして、あまねくビブリオマニアの心をくすぐります。あらゆる言語の本を読み、ありとあらゆる書物を知り尽くした理想的な司書さんとかもいますし。「本」に対する愛が溢れている作品ですね。
 望んだとおりの「わくわくするような大冒険」を終えて、リンネは前よりちょっぴり輝く世界を見つけました。時を止めることは凄いけれど、もっと凄い事があると発見したシーンは、読んでいてにこにこしたくなります。ああ、それはとても素敵な事に気づいたね、って。
 ただ、戦闘シーンはちょっと物足りないところがあったかな。頭を使って作戦を練ったりするのは面白いんですが、ラストバトルの決着が……ちょっとあっさりというか、あれ、演出は大仰だけどさらっと終わってない? と。哀れパイロフ。
 それにしても、時載りって人種的にはどゆものなんでしょうね。リンネはなんとなくドヰツ系っぽいような……。時砕き七人衆は二人しかいませんが、どっちも日本名だし。ありとあらゆる人種の坩堝でもあるんでしょうか、バベルの塔


 1巻ということで、剣介パパとかの謎が残っていますが、ある程度の事情は作中で開示されているから、この本が1巻だけで終わっても「終わってない」感じにはならないんですよね。作品に適度に残す謎のさじ加減ってのはこれぐらいが絶妙なんどえす。『埋葬惑星』1はそのへんが分かってなかった(フランの背中の傷)。まあ、あれも結構古い本なので、著者の新しいほうの本はまた読んでみようかなと思います。

*1:2巻は未読。