山科千晶『埋葬惑星』

「小説の読みすぎではありませんか? それは立派な犯罪です」

埋葬惑星 The Funeral Planet (電撃文庫 (0919))

埋葬惑星 The Funeral Planet (電撃文庫 (0919))

 三巻まで出てるけど、読む気にはなれなかった新人さんの作品(ただし4年前)。
 電撃短編の拾い上げから連載を経て文庫化された作品。なんか、後書きのエピソード、拾い上げ後一生懸命に書いた作品を「あ、これ面白くありません。このまま他社へ応募されてもけっこうです」と編集さんに言われたってのは生々しくイヤですな。そのワリに、巻末に用語辞典がついてる。
 イラストはギャルゲ絵。男キャラが格好いいと言うより恥ずかしいし、女の子は口と鼻が小さすぎてバランスがおかしい。読もうと思って本棚から出して表紙見た時、「なんで俺買ったんだろう……」と思わず悩んだ。多分、主要登場人物に猫(型アンドロイドのジョーイ)がいるからでしょうけど。
 で、本編だが、基本的に地味で淡々とした話運び。星がまるごと墓地だから埋葬惑星、という舞台設定で、どう話が運ぶのかと思ったらまっとうに進行したけれど、どうも登場人物に感情移入しにくかった。
 最初の主人公・ジョーイは、アンドロイドなので、心とか脳裏とかにあたる部分には全部「AI」があてられ、不安や混乱は電圧で表現されている。作者はSFは書きなれているようで、こういったアンドロイド主観の描写は面白かった。が、それとは関係なく、ジョーイの目的である「マルコを自由にする」に読者が共感するには、色々と物足りない。彼はマルコが死んだ後に作られた慰霊用ロボットだけど、プログラムだけでマルコへの思いを説明されても困る(プログラムの重要さは、細々としたAI主観描写で見れない事もないけれど)。
 そもそも、彼の至上コマンドが書き換えられた衝撃ってのは、人間が物凄い心を揺さぶられる事に相当したのだと思うけれど。彼はアンドロイドだから、実は何か仕込まれたんじゃないかという疑いが消えなかった。そんで終盤、計画実行が不可能と知るやブチ切れてバーサクする姿に、やっぱAIハッキングされてたんじゃねーのとかそんな気分に(ハッキングしてどうすんのというのはあるが)。ジョーイ自身は可愛いんですけれどね。プロローグか何かで、生前のマルコがジョーイの絵本を読んでいるシーンを神の視点から読者に示すとか。何か「どうしてその目的がそんなに大切なのか」って読者に訴えかけるものに足りないと思う。
 モノローグ氏は、内面描写とかがそもそも無いサブキャラなので置いておいて。謎だらけなのも彼の持ち味ですし。
 もう一人、フラン(表紙のお嬢さん)。彼女は色々葛藤を抱え込んでいるんですが、そもそもなんでそんなに悩んでいるのかって理由が分からない。彼女はお嬢様の出て、「なぜか」神官を志しており、ジョーイの教区担当で仲良し。しかし政治の世界では名を轟かしているパパンが余計なお節介を焼き、更には貴族の専属かつ最高級アンドロイドであるキルヒがいるため、神官仲間からは浮きがちです*1。そんな孤独な彼女に、無邪気なジョーイは心の拠り所となっているのですが、そのジョーイが星の侵入者であるモノローグと行動を共にし始めたからさあ大変……とまあ、そこまでは分かります。
 終盤、彼女は神官を辞めなければいけないという選択肢を突きつけられますが、「なぜ神官になったのか?」「なぜ神官を続けたいのか?」神官を辞めたら家に戻らなければならないが、「なぜ家に戻りたくないのか?」という点がまったく説明されないまま、フランはどうしようどうしようと悩みます。その辺の理由は、登場当初から出ている謎「背中の傷」にあるようですが、これが何なのかまったく説明されていません。傷があるって事は被害者っぽいのに「罪のあかし」らしいのも謎。続き物やっちゅーても、その話の中で登場人物の行動原理を説明する最低限のモノくらい出すべきでしょうに。
 しかもフランは、バーサクしたジョーイをとめるため彼を適度にボコるモノローグとの戦いを見、そしてその後のジョーイの決意を聞いて、勝手に自己解決してしまうのでありました。何か絡みが足りない気が……。も、いっそフランのこゆエピソードは全部いらない気がしました。必要な説明を怠って、中途半端に見せるくらいならいらん。なんだかんだでキルヒの存在と、ジャックのエピソードが一番良かったなあ。あと、気持ちは分かるがジャックが倒れた後のジョーイの歓声には萎え。
 読んだあと印象に残るものがあまりなく、だから余計瑕疵が目だって見える。普通、より、もうちょい下という感じの作品でした。

*1:あと、苗字がメディチはねーだろと思った。