木村航『串刺しヘルパーさされさん ~呪われチルドレン~』

「ボクに勤勉さを求めるな。猫は学ばない。その代わり、見抜くのだよ」

 HJ文庫ってあんまり本屋で見かけないなしかし……。でも『さされさん』は3巻まで出ているので、引き続き追いたい所存。あ、そいや作者、アニメにもなったぺとぺとさんの人ですね。
 この作品、まず主人公のキャラ立ちがいいですね。ようはチャキチャキの江戸っ子ヘルパー(18歳♀)が、熱い体当たりのノリで依頼人ご家族の問題にぶつかっていく、人情モノ。ただし彼女にはでっかい剣がぶっ刺さっている!
 物語の舞台は、「精気《プネウマ》」とゆーものが存在している現代日本。精気を利用したプネテク(プネウマテクノロジー)の先進国だが、同時に精気の低気圧によって発生する呪いと、高気圧によって発生する祝福もまた存在しているのであった……。呪いの形は悩みの形、ということで、登場キャラも3歳の少年から高校生まで若い層で占められ、青春的要素も濃い。
 文章も結構簡易で読みやすいです。ただ、場面場面で擬音だけで描写を済ましている箇所もあるのが難点。とはいえフォントサイズを弄っているわけでもないし、そんなに長々と擬音が連続するわけではないので、あまり気にしなくても大丈夫かな。さされさんの江戸っ子的言い回しの数々は楽しいです。映画寅さんの口上みたいなれ。作者が後書きでライトノベル落語と言うだけはあります。
 ヘルパー歴もうすぐ2年のさされの新しいお仕事は、童子守《わらしもり》家の三人の子供達の面倒を見ること。家主の封太郎先生はベストセラー作家として多忙のため、家にはさされ(と担当官の猫人形シャルロ)と子供達だけ。そしてこの家庭には一筋縄ではいかない事情があり……。
 基本が明るくスカっとした人情物なので「呪い」がモチーフなわりには、ドロドロとした陰鬱さはないカラっとした仕上がり。その一方で少年少女の青春的葛藤が存分にぶつかり合う物語になっています。スーこと崇君と、聖《キヨラ》の終盤のやり取りはいいですね。「本当にこんな役やりたかったの!?」「〜それ毒だから!」とか。あと、ニョロ(3歳♂・イタリアン・本名アンニョロ)とか可愛いです。キグナス(あひるのおまる)を見た時、まっさきにキグナス氷河思い出しましたが。
 不思議なヘルパーさんで連想するのは落ち物系や、メアリー・ポピンズ。ただ主人公のさされに特別不思議な力があるわけではなく(剣で串刺しになってますけどね)、世界に呪いと祝いという不思議が満ちている。
 この1巻では当面の重大な呪いが一つ解けましたが、さされさんの呪いには謎も多いですし(シャルロって、さされが自分が呪われた時の事、思い出させないようにしているような気が…)。一部のキャラクターが未消化なのが難点。天花真名美はまあ脇役だから後のほう出番なくてもそんな気にしなくてもいいかなと思いますが、ミチオがキャスティングされた理由とかきになるなあ。いやまあ、ニョロが言うようにラブラブだからなのでしょうが、キヨラ自虐的すぎ……。
 色々とハッピーエンドな終わり方には少々ご都合さも感じますが、この作品のキャラクターには幸せになってもらいたいので、微笑ましく多少のご都合は許せる。そんな作品でした。