14号感想

■【特集小説】
黒い飛行船  著/遥 彼方(原稿用紙換算45枚)

 14号の特集は「if」。確か言い出しっぺは俺(with飲み会)だったと思うのだが、書きにくかったのかこれ一本しか特集作品が出なかったという悲劇。
 都市伝説染みた「黒い飛行船」の存在を背景に、過去の思い出を揺り起こす幻想。
 少女が主人公の意図に気づいて豹変するあたりから、唐突な展開が連続した作品で、オチも「今までのは何だったの?」という気分になった。どうせならあのまま、主人公がいかだに乗って川の流れに消えて終わり、でよかったと思うのだが。
 終盤の不条理的な展開は、最初の変化がうまければ読者が「そういうものなのだ」と納得して入っていけたのではないだろうか。具体的には、主人公の意図とか本性とかに、もうちょっと伏線があるとよかった。そこが残念な作品。
■【読切小説】
帰郷  著/星見月夜(原稿用紙換算10枚)

 短いが、染み入るような郷愁を誘われる作品。学生時代、約束もないのに毎日会える友人がいることはあたりまえで、社会に出て初めてそれがどれだけ稀少なことであるかに気づく……なんてくだりにはとても頷いてしまった。やはり、「学校」は特別な空間なのだなあ。
 そしてそんな特別な場所を、多くの人が共通体験として持っている。やっぱり学園物小説は強い(いや、この作品は学園物ではないのですが)。
鴉山鏡介の虚像限界  著/蒼ノ下雷太郎(原稿用紙換算50枚)
 ちょっとバイオレンスな能力バトルものと思いきや、後半で実はサイコサスペンスであったと分かる二段階構造。分かりやすくエンターティメントしているし、これを更に分量増やして文章を磨けば新人賞の投稿には充分じゃないかな。
 文章に関しては、校正の段階で突っ込みまくって疲れたのでもういいや。ただ、昨日、秋葉千景『月が墜ちる夜 ルナティック・カーニバル』*1というのを読了したのだが、あれよりは面白みのある文章だと思う。
 商業作品とアマチュア文芸を比べると笑われそうだが、私の率直な感想としてそうなもんで。雷太郎さんの文章は確かに日本語的なまずさは随所にあるものの、そこはまだ技術で補える部分だ。そして一つ一つの表現を考えてあって、凡庸には陥るまいとしている。だが、前述のルナティック以下略は、変にポエミーなわりに言葉遣いが平凡で台詞回しも下手だった。気の利いた表現がないのだ。水瀬葉月のぼく魔女も、やはり表現がよく練られていて読者を飽きさせずに楽しませてくれる文章だった。日本語として美しい文、正しい文、読みやすい文は大事だが、感性的なものは前者より鍛えるのが難しい。雷太郎さんにはこれからも頑張ってほしいものである。
 あと、魔物遣いの設定は面白い。「人間は自分が人間の限界を超えた能力を持つことがイメージできないから、人間を超えた力を持つ“魔物”を作り出し、それを操ることで超能力を使う」という。これはいいアイディアだと思う。あと、続編が出るなら是非悪質眼鏡の活躍をお願いしまっす。
アカヒメ  著/恵久地健一 絵/踝 祐吾
 えぐっさんはエロいなー*2
 女性小説家の主人公が、勝手に他人のパンツをはいてしまうのだが、その他人の正体は悪魔であーだこーだ。主人公がしょっちゅう脱いだり体毛に注目が入ったりする。神の側、悪魔の側ってゴッドサイダーみたいですね。
 悪魔のひとがこの世の仕組みについて説明してくれましたが、十字架教はじめ世界三大宗教が唱える死後の世界よりずっと親切なあたりがさすが悪魔です。ほら、悪魔って人間に優しいし。
■【連載小説】
歓喜の魔王III REGENFAELLS NUNTIUS. 〜 der letzte Teil.  著/六門イサイ(原稿用紙換算70枚)

 拙作。実は今日からこれの続きを執筆する(ぉぃ)。
 連載中の第四回であり、なおかつ前回から直接続く前後編なので読む際はご注意を。正直、戦闘シーンや時間経過、空間描写など反省する点だらけ。というか、基本が方向音痴(行った事ない場所について説明されると凄く理解に時間がかかる)の私はどうも空間把握能力に縁がないらしいと気づいた。地図とか読めないお!


 さて、無事3周年を迎え、もうすぐ4周年という回廊も、次号で休刊です。疲れたとか人気ないからやめようとかじゃありません、編集長が忙しくなるからです。結論。大丈夫、来年末には復活予定だったと思うから! というわけで、15号は枚数無制限チックな超豪華増量バージョンになりますってPDF作るんだっけあー偶数号だから違うやうん。というわけで、もしも『回廊』創刊号から見続けていたという奇特な方がいらっしゃいましたら、どうぞその「有終の美」をお見届けくださいませ。

*1:2000年に出たスニーカー大賞の受賞作。作者は2巻を出しているが、その後の執筆活動は確認出来なかった。正直あれじゃ続かないよなと思う。ただし、絵師は伊藤真美なのがポイント。

*2:そろそろ言いがかりになってきたって? だが俺は謝らない!