ホラーM12月号感想

 サタニスター目当てで買い始めて、つい全部読み込んでしまう少女漫画雑誌(ホラー漫画は少女漫画に分類されるそうな。不思議)。私が小学生の頃(ちょうど『ゾンビ屋れい子』がリルカ編開始した頃です)は、もっと刺激的で凄いスプラッタで怖い印象だったのですが、最近はややマイルドかな。ただ、熊谷蘭冶(美人の顔は全部同じ。だがそこがいい)のように新人にアタリが出てきているので今後も楽しみ。
すっくと狐(吉川うたた)
 ご長寿漫画。私は文庫版の1巻ぶんしか話を知らないんですが、スレ住人の間でも長すぎてスルーする人多数。私も話が分からないので読んでいません。今号は新章開始ですが、以後もスルーの方向で。
辻占売 子取り鬼池田さとみ
 占い師にーさんの活躍を描く1話完結シリーズ。……今回は鬼の絵、これ、コピペですよね? そこがマイナスかなあ。ただ、鬼の正体が見えたシーンはちょっと怖くてよかった。よく分からないのは、おばちゃんは女の子に助けて欲しくて声をかけたのかなというところですか。
もののけ草紙 邪ノ眼封じ高橋葉介
 千里眼で酒の席をもつ芸人・手の目の活躍を描く1話完結シリーズ。辻占シリーズ同様、安定した小粒の作品です。手の目は夢幻紳士にもヒロインとして登場したそうですが、そっちは知らんのでよく分からないっす。
 見鬼(みき)なんて名字だから、ぼっちゃんも妖怪かと思ったら違っていてびっくり。しかし、変なものが視えるようになっても、結構落ち着いているあたりが高橋キャラですね。あと、時代背景ってなんとなく江戸くらいだと思っていたら、今回は汽車が走っているのでよく分からなくなってきました。まあ手の目が何百年も生きているんだと思えばいいのかもしれません。
 今回の手の目はヌードも披露して色っぽくて良い。彼女の口調がまた作品の雰囲気に一役買っており、そのへんがまた好みです。
人肉レストラン(森戸央)
 これって連載だったんだ……。えーと新人さん(だっけ?)のカニバリ漫画第二回。
 正直人肉食というテーマは好きではありません。気持ち悪いんじゃなくて、意味がないからです。美味しいかどうかは食べなきゃ分からない(そしてどうやら食べれる味ではあるらしい)んですが、健康によくない。プリオン異常がどうのっては分かりませんけれど、同種の生物を食べるのは危険です。大腸菌とか、持っている菌がそのままうつっちゃうらしいので。
 また、使い古されたテーマってのもマイナスポイント。この作品は「人間は食べちゃいけないけどクローンならOK」という倫理観がポイントですが、現実から剥離したその部分をもっと書き込んで欲しかったなあ。解体シーンの絵も迫力がないのが残念ですが、そこは今後に期待……できる、かも。
 設定の使い方は、前回のほうが捻っていて面白かったと思います。
サタニスター三家本礼
 殺人教師の前フリが長かったわりにあっさり決着がついているあたりがミカモン流。
 他の作家なら今回の話丸々使って、静香ちゃんとかも書いていたんだろうけど。半分くらいで終わって、残り半分で新キャラ登場&新展開。批判もあるでしょうが、この細かいことは犠牲にして速度を出す作風だからこそ、ゾンビ屋れい子(雪女編)のジェットコースター感が出たのであります。
 もとはただの中学生だったいずみも、破壊神コワッシャー(釘棍棒)でなにげなく3人も殺しちゃいましたね。ポッと出の人はともかく、どうにも死にそうにない雰囲気だしていた人があっさり死ぬ油断のならなさも流石。なげやりな「かいせつ」といい、今回はテンションが高くて面白かったです。でも途中で力尽きてトーンが貼ってなかったりしていますけど。
 サタニスターの裏にある組織(闇バチカンというネーミングにはノーコメ)や、大会の真意が出てきて、話が大きく動く感じも満面で期待が高まる。怨霊武器って結構重要なファクターのようですね。
帰宅部(柴原むかで)
 なんだろな、こういう絵、昔見た事がある……。学級文庫とかの児童書の挿絵にあったような感じ。古臭いところが味わいがあってなんかいい。
 転校してきた中学は奇妙なルールに支配されていた。ルールを握っているのは鬼部の部長・鬼長。ならば鬼長を倒してルールを正常にしてやる! と剣道少女は息巻くすが……。
 不条理系を得意とする新人さんらしいのですが、正直ストーリーに納得がいかない。瀬戸くんは自分が解放されるために、事前に真実を教えてなかったの? 鬼たちは鬼長よりは弱いんだから、倒せるんじゃないの? 欠席者が多いってことは学校にこない選択肢もあるんだし、皆学校に出なかったら鬼に追いかけられないんじゃないの? そもそも教師がどこにも出ないんですが、学校自体が一つの異世界をなしている印象です。防具同士でどつきあう剣道など、シュールな図も多く、そのへんが持ち味かなあ。
トン子ちゃん花輪和一
 昭和(かな?)の農村を舞台に、豚の母から生まれたトン子ちゃんと、猫の父から生まれたお嬢様の霊体験を花輪氏特有の濃い絵柄で綴るシリーズ。雰囲気も台詞回しも全部花輪和一百パーセント。もう自分の世界が出来きっていて、あまり言うことがない。
 とりあえず焼きニンニクが食いたくなります。
薔薇の婚約者うぐいす祥子
 絵もストーリーも作家陣では群を抜いたうぐいすさん。でも、今回は前に載っていたやつのほうが好きだなあ。表紙が微妙にサギだと思う(笑)。
 残酷なことを平気でするような問題児が、孤児院から名家へ引き取られた……。このOPの時点でもう物語りに引き込まれます。そして続くは後継者を巡る女同士の陰湿な戦い(でも、最後息子のほうが選ぶんじゃ、競わせた意味がねー気が。やっぱポイントは一度聞かせた歌声かな?)。
ミスミソウ押切蓮介
 東京から転校してきた主人公が、自分達の卒業を最後に閉校する学校で凄惨ないじめを受ける、リアルサイドホラー。『でろでろ』を初め、他紙で何本も連載を持っている押切ですが、どこからこのバイタリティが沸いてくるのでしょう。こないだもコンビニの猫漫画でペットの亀の話を描いてましたし。
 春になったら卒業して、いっぱい笑うんだ……。そんなかすかな希望は、第1話終了時の「私の家族は焼き殺された」でのっけから微塵に打ち砕かれる。
 教科書を隠されるなんて序の口、押しピンで手を刺され、鴉の屍体を机に入れられ、それを埋めていればすぐ傍の樹にボウガンを撃ち込まれる。暖かい家族と、唯一庇ってくれるクラスメイト・饗庭(美少年)を支えに耐え続ける主人公・春花だが、クラスを取り巻く学校そのものが既に異常な環境だった。
 展開が遅いというのがもっぱらな評判だが、私はこのくらいの丁寧な進行が実に気に入っている。単行本が出るかどうかは分からないけれど、出たら確実に買いだし、一気に読めば気にならない。
 春花が不登校になってからは、彼女をいじめる周囲の生徒にもスポットが当たっていって、どこもかしこも救いのない人間のドロドロが浮き彫りにされていく。あの世界で一番幸せだったのは、結局饗庭と春花の家族だけだったのではないかというくらい。
 いじめられっこの復讐ストーリーという予想は当初からあったものの、ようやく血の惨劇も開幕のようです。次号が物凄く楽しみ。
新 呪の招待状 タイトロープ(曽祢まさこ)
 十年の寿命と引き換えに、望みの相手を呪い殺す呪殺屋の長寿シリーズ。同じ長寿でも狐と違ってやはり1話完結だから、安心して毎回読める。
 今回は普通に勧善懲悪っぽくて、爽やかな友情(でも見方によっちゃ百合)として終わってしまって物足りない印象。いつかの惚れっぽい少女やサイコな兄貴の話のがホラーっぽくてよかったなあ。まあたまにはこういうのもいいですけど。
絵画修復家キアラ 聖痕の画家(たまいまきこ)
 天才絵画修復家の少女・キアラとギネヴィオの活躍を描くシリーズ。絵も話も悪くはないんだけれど、ホラーじゃないよね。ミステリとかサスペンス。ボニータとかだと似合うと思うんだがなあ。
 絵に描かれたキリストが血を流す──奇跡鑑定士に同伴したキアラはそのトリックを見事に見破るが、逆に魔女の疑いをかけられて大ピンチ! の巻。アンジェラはあまり好きになれませんねー。
マミーちゃん三条友美
 エログロ代表選手の、いつも通りの短編。今回も百合的エロスに虫系のグロがあってキモエロイですね。
黒いお客様(柳田やなぎ)
 新人賞の審査員特別賞作品。地味で淡白だが、すっきりした可愛さのある絵が好感が持てます。
 ホラーとしてはやや微妙。誰かがホラーと言うより落語といっていたが、確かに作中の状況やオチはそれに通じるものがありました。あと、でかい猫可愛い。
ワザワイ・アーレー柏屋コッコ
 絵が可愛らしく、話もそれなりによかったが、ホラー的にはいまひとつ。しかし亀とゴスロリ思想がリンクするって思想は分からなくもないけど何だかシュール。でもプレゼントに生き物はやめましょう。あと、サルモネラで腹は裂けないと……。
 笑顔の主人公と、嫉妬の顔が乱舞するコマは先の惨劇を予想させていかにもだったが、オチで拍子抜け。主人公が嫉妬で八つ裂きにされる展開のほうが、捻りはないかもだがホラーらしかったかな。主人公は周囲に悪意を向けられていることを薄々感じながらも、健気に働いている。で、結果「善良無垢なるものが報われる」オチになっているあたりが弱いな、と。同じ報われオチなら、もっと激しいイジメと報復があったほうがいいし。
 ただ、最後のスプラッター状態を見て「みんな幸せそう」と言える主人公もおかしい人なので、そのへんを強調できたら違う味わいのホラーになったよね。しかしパーティー会場ってえらく立派な屋敷だなあ。
エンマ通り0番地 時計塔の館(ワタナベチヒロ)
 連載シリーズの打ち切り(そうとしか見えない)最終回。不動産屋の娘である主人公は、ある霊的物件で取り殺され、そこで出会った閻魔の下働き(美少年)と、生き返らせてもらうために霊を成仏させる仕事を続ける……というストーリー。
 なんだが、主人公の性格がウザくて嫌だった。考えなしだし。それに、主人公は死んでいても普段どおり生活しており、また、生き返りたい! と強く思っている描写も出てこない。今回、唐突に出てきた閻魔によって生き返らされ、「ああ、そいや死んでいたっけ」と思ったくらいだ。
 鏡を追いかけて屋敷の過去を見たりとかは面白かった。でもあまり印象に残らない作品。美少年キャラが、普通の顔にしか見えないのに、美形扱いされていたりとかも馴染めないし。