塩野干支郎次『ブロッケンブラッド』I・II

ブロッケンブラッド (ヤングキングコミックス)

ブロッケンブラッド (ヤングキングコミックス)

ブロッケンブラッド 2 (ヤングキングコミックス)

ブロッケンブラッド 2 (ヤングキングコミックス)

 魔法少女モノというジャンルが誕生して早40年弱……世界では様々な亜流の魔法少女モノ・及びそのパロディが発生しました。その一つが「偽魔法少女(極悪魔法少女)」であり、魔法少女のお約束(=善良なる存在)を逆手に取った邪悪キャラが売りであったりするわけです。この辺の代表は主人公を撲殺しては「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪」の呪文でお馴染みの撲殺天使ドクロちゃんや、魔法は使えど頼るのは己が関節技(サブミッション)な魔法の国のプリンセス・田中ぷにえなどでしょう。
 ブロッケンブラッドもまた、魔法少女モノのお約束──そう、魔法少女を逆手に取ったパロディの一つであります。独逸系三世の高校生・守流津健一(しゅるつ・けんいち)はごく普通の魔法少女ヒロイン。ただ一つ普通とは違っていたのは、「健一君は男の子だったのです」。
 とゆーわけでっ。小さな男の子が好きな大きなお姉さんと、一部の大きなお友達にも大人気・変身魔法女装少年ヒロイン物語『ブロッケンブラッド』でありんす。
 物語の背景は、先祖のドイツ人が創った人工魔女「ブロッケンの血族」が起こす怪(というよりもむしろ珍)事件の数々を、最も血の濃い本家の人間である主人公が解決しながら、ありとあらゆる女装とコスプレをこなすというもの。初期はメイド服など基本を抑えつつ、1巻中盤からはテレビ局の潜入捜査のため「ノイシュヴァンシュタイン桜子」という名前の女性アイドルとしてデビューを果たし、2巻は「桜子ちゃん」としての芸能活動が話の中心になる。
 主人公・健一はかつては自身も魔法少女だった叔母・礼奈(金と美少年に目がない)のプロデュースで、無理やり女装もコスプレも芸能活動もやらされており、基本は「はからずも女装の似合ってしまう隠れ美少年が、嫌々ながら女装し続けて悶々とする」構図を極めている感がある。
 アイドルとしてCM出演を果たせば、同級生の男子が「あのCMの桜子ちゃんスッゲー可愛いィィィ──!」と沸き立つ様に頭を抱え。
 映画では「仕事のためにはチャイナドレスも着る女装美少年エージェントを女優として演じる」といういじめのような仕事を持ってこられ。
 遭遇した敵は未来の自分がなるかも知れない厭要素満載だったり。
 果ては、憧れの美少女はやはり女装美少年でした、なんて不幸まで降りかかる。
 メインキャラは礼奈さんのほかにもう一人、従妹の飛鳥がいますが、敵を撲殺する健一にほれた彼女は彼女で、歪んだ愛情を随所随所でひっそりと発揮してくれます。健一君が潜入捜査をする際のダシにことごとく使用され、彼のコスプレ姿に随喜する。触手シーンで彼女が鼻血を噴いた時はこっちも吹きました。
 「本当は女装なんてしたくないんだけれど、変態だって思われたくないから、必死でバレないよう女の子のフリをする」「だから女の子らしく喋ってやるさ! ああっ……でも……厭だあああああ!」という路線でのお約束全開。ストーリーなんてあってなきがごとしで、ひたすら主人公の女装姿とそのやさぐれ具合を安心して堪能出来る仕上がりになっております。
 このあたり、うまく捨拾選択されてますね。背景設定の「ブロッケンの血族」自体はもっとシリアス方向にだって話が展開させられそうなのに、出てくる血族連中は変態とダメ人間しかいない(しかも殆どがオッサンとオバハンだし)。1巻の途中まで出ていた「博士と助手」が2巻で忘れられていた点だけ、中途半端で残念かなー
 あとは全体的に小ネタがきいており、テンポも抜群。2巻の「…答え3 …答え3… 答え3」とか好きです。
 敵を倒す撲殺(死んでないけど)シーンは、毎度毎度彼の魂の叫びが今日も虚しくこだまするのでありました。


 なお、同作者のダークファンタジー漫画『ユーベルブラット』はまったく別の作風で(でも主人公はやっぱり美少年)、直接的なエロスが多い上シリアス全開。こちらのシリーズとブロブラを一緒に読むと混乱する事請け合いです(笑)。