12号感想(1)

 オンライン文芸マガジン『回廊』12号発行。というわけで、その感想第一回です。多分第二回でも出ます。感想書いても作品によって気合の入り方がどうしても当分ではありませんが、そこは突っ込み不許可の方向で。

■特集小説

 特集『世界の終わり』をテーマにした小説群。テーマがテーマなので、基本的に後味の悪い作品が揃っていますんで、そういうの好きな人は是非だうぞ。
【そして僕は「世界」になり】  著/水池 亘 絵/あらし
 アニメ調というかこなれたラノベ調の表紙絵が目を引く。あー、いい仕事してるなあ。
 内容としてはいわゆるセカイ系だろうか。若干ゲームじみた超能力に目覚めた少年少女が集められ、(背景が読者に不明なまま)戦争に駆り出されるというストーリーはセカイ系と読んで問題ないかと。戦う相手も超能力少年少女、傷つき倒れるのも少年少女、しかし超能力は『殺す』ものではないので、別にいきなり兵士にさせられた葛藤がどうのではなく失ったパートナーに対する苦悩、というのが主眼になっている。
 これ以上はネタばれになりそうでうまく言えないので割愛する。が、まあ付け加えるなら「ここまでの流れでそのオチはねーぜ!(褒め言葉)」
【ノイエ・エイヴィヒカイト】  著/秋山真琴 写/友利亜
 SF的世界の終わりの小説。みなさん、タイトルは永劫回帰だと思ってください。でもニーチェも聖槍十三騎士団も関係ありません*1。もちナチスも。
 のっけから世界が滅んだ作中で、世界が、そして宇宙が回帰していく様を描く短編。なんか古典SFでこんな感じの見たような読まなかったような気がするけどどれとは思い出せない(別にありきたりだって言いたいわけでもないが)。何か感想つけにきー。
【LUNA, Mad Maria in the Wrong World】  著/キセン 絵/遥 彼方
 ある日彼女が電波系になった──という感じで始まる冒頭。主人公とヒロインは恋人同士ではなく、「つきあっているということにする」という表面的な関係を演じ続けているが、そうする意味が今ひとつよく分からなかった。今時の若者として書こうとした設定なのだろうか? まあ、この関係設定はラスト一行でうまくオチ(笑える意味での)になっているので、そのために用意されていたならいいかもしんない。
 とかく作中で電波発言をする人が出てきた場合、読者は大概その電波の内容が「本物の毒電波」か「毒電波に見えるが本物の超能力者(か何か)」のどっちかを予想するもので。LUNAの場合は設定がアレげではあるがわりと内容が詳細であり、「電波と見せかけて本物ってオチじゃない?」という予感が最初から付きまとっている。
 物語が動くころ、その予想をいい意味で裏切ってくれそうなシーンが入ってくるのだが、あれ結局予想通り? と落胆させて──させたところで、うまく着地させた感じがある。「なんだよー、結局そういうオチかよー」と一瞬思ったが、ラストの糾弾があったからこそ生きたと思う。
【濡れるのは裏側の瞼】  著/恵久地健一
 これ、最初タイトルが「濡れるのは瞼の裏側」だった気がするんだけど……まあいいや。
 分類としてはホラー。作中にちょっぴり内輪ネタも込められているが本当にそりゃ内輪の話だ。ははは。
 ややスロースターターだが、盲目の主人公が視覚を取り戻してからが俄然面白く、疾走感に溢れている。ホラーと呼んだように最後まで徹底して救いがない。でもグロはありませんです。
【世界の果ての年代記《クロニクル》──World's End】  著/夏目 陽
 実は前後編。長編病なっちゃんの作品だけあって、編集担当時に書き直しを頼んだら案の定量が増えて帰ってきた恐るべき作品だ。でもその分内容が初稿よりぐっとよくなったからオールオッケーモーマンタイイズメニーゲーゲー。
 そんなわけでスーパーサマーアイ夏の疾走ワールドエンド号だったですよ実は。
 忘れそうなので粗筋を紹介しよう、世界の果てにある世界の果ての村に旅人がやってきた。主人公(旅人)はそこで、世界の果てで唯一生きている二人の少女と出会い、彼女達から世界の果ての村にまつわる歴史を聞く。ラノベより文学調もしくは一般文芸のたぐいと思って読んで欲しい。
 物語の色彩は、全体的に乾いた灰色。正確には、モノクロとでも表現するべきかもしれない。古い映画フィルムで観ているような空気がある。登場人物の語りで構成された地の文に会話が多いが、会話括弧がない点が、最初は読みづらいかもしれないが、作品の雰囲気にはあっているので大丈夫だと思う。次号掲載予定の後編(原稿自体はあがっているから落ちたりしないぜ!)で見られる結末は非常に感動的だったので、是非読者諸氏はこの作品を読み込んでいただきたい。

■読み切り・連載小説

【傘】  著/星見月夜
 ちょっと病弱な女子高生と傘のお話。オチの一文にくすりと微笑ましい気分になること請け合いの一本。
 地味に良いというか、派手さはないがしっとり感のある出来栄え。
【陽炎の夏 第七回】  著/芹沢藤尾
 毎回編集を担当していたんだが、今回は諸事情(編集後記参照)で担当していなかった作品。大概の作品は編集段階で目を通しておくのだが、その関係で今になって目を通してみたり。んー、でも、自分が読まないジャンルの小説は編集の仕事以外だとつい食指が動かない……(酷)。そもそも野球小説だけど野球に興味はないし、毎回話が動いているんだか動かないんだかというやきもき感が。うーん。
 しかしこんなところ(自分のブログ)でこんなこと書いてていいのか悩んできたのでやめる。
【歓喜の魔王II GOTTOLOS KIND. 】 著/六門イサイ 絵/空信号
 拙作。物語第二回。挿絵が素敵恥ずかし。よかったら、読んでみてください。
【NesT】  著/痛田 三 絵/藤堂 桜
 『グラン・グラン・ギニョール』で衝撃的回廊デビューを果たした著者の新作。といっても、非常に狭い範囲の世界での話しだが。
 痛田氏の文章は、徹底してざっくばらんというか程よく下品? で、壊れ気味で、やるせなさ感漂いながら、独特の軽妙さとリズムが魅力的だ。今作の場合では、キャラの名前がフリークガールとかコギャルとかそんな感じのカタカナで全て表現されているあたりだろうか(そういう名前のキャラではなく、語り部がそう呼んでいるのだ)。もちろん、その他の数々の言い回しも非常に好みである。
 入れ子構造になった『夢』をテーマにした作品で、『セツ』の都市伝説と絡めて進むさまは、不安定なインテリアを見ているようだ。ゆらゆらしているんである。主人公の現実も、夢も。そして、最後は……。
【『    』】  著/蒼ノ下雷太郎 絵/赤いきのこ
 タイトルの読み方は「たすけて」。目次ではNesTの前にこっちがあるのだが、感想が長くなったので後回しにしてみた。
 前回12号に掲載された『地獄は終わらない』が(多少の瑕疵はさて置いて)気に入っていたので、期待して読んだ作品だが、結果は残念なものになった。編集が言っていたように、確かに安っぽさやチープさがある。これは辛口にならざるをえない。
 あと、主人公名前負けしすぎ。
 扉と挿絵などのイラストは非常にいいです。
 以下ネタバレ感想なので、これから作品を読むという方は以下に目を通さない事をオススメする。あと、作者ご当人がこれを読まれたら、ええと気を落とさないでというか言いたいことありましたら是非ご一報ください。はい。すんません。

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 さて、本作では『双子トリック』というものが存在する。主人公ライトには双子の兄太陽がいて、引きこもりだった太陽は両親を殺し、主人公も手にかけようとしたが、逆に返り討ちにあるのである。だが、物語ではまず主人公が家族を殺したように装われる。その構成自体はいいのだが、突っ込みどころが多い。まず、冒頭で母を毒殺したと彼は語っているのだが、毒殺したのも「意外と簡単に」薬を手に入れる事が出来たのも、彼ではなく兄の方である。双子が超能力で思考のリンクでもない限り、まずもって不自然な独白になっているのだ。
 また、この作品は扱っている題材に対する表現方法が非常に直裁で安易だ。言ってみれば「描写」ではなく「説明」が全体を占めており、主人公の苦しさ(タイトル『』の読み「たすけて」と併せて考えれば、作品の主軸である部分)や、殺人の理由を読者に伝えるには弱いのである。これは、花田の首を絞めるシーン手前の台詞などにも現れている。この台詞回しもはっきり言って拙い。
 まず、生きている人間の言葉という気がしない。余計な事を喋りすぎているくせに、きちんと読者に共感させる余地を与えていない。感情移入出来ない。「ねぇ、分かる?」の部分だけでもどうにかならなかったのだろうか。殺人によって精神が不安になっていたところで、神経を逆なでにする告白を受けてキレた、優等生である事をプレッシャーに感じていた少年。そういう人物像が、この台詞では非常にうすっぺらく描かれているのだ。人間は自分の考えや思いを全て説明して喋ったりなどしない。このシーンだともうちょっと台詞を吟味して、主人公自身の胸中の独白と並行したほうがよかっただろう。
 台詞もそうだが、今回は文章の拙さも気に掛かった。正しい言葉が美しい言葉とは限らないもので、文章にもテンポやリズムが存在する。この作品を音読してみると、結構ひっかかるものを感じると思う。また、センテンスが長すぎる文章と、もっとコンパクトに纏めたりシェイプアップ出来るはずの文章が散見され、読みにくさを感じた。この点、前作ではあまり気にしなかった部分だが、今回は前より悪くなっている気がする。
 編集段階でも指摘されていたように改行が多い。これでも当初よりは減っているらしいが、まだ多い。もっと文章を纏めればここまで不必要な改行もいらないだろうし、そうしたら余ったページで更に心理描写などを盛り込むことも出来るのではなかろうか。
 作者自身の言によると、この作品は誰にも届かないSOSがテーマとなっている。タイトルが空白で表されているのもそのためだ(と思う)。言いたくても言えないSOS、助けて欲しいのにそれを我慢してしまう主人公、誰にも分かってもらえない自身の苦しみ。この作品で必要なのはそういう要素のはずだ。だが、前述したようにそれらの要素は薄く感じられる。伏線を張り段階的に説明し、そのような情報自体は伝わってくる。だが、それはあくまで「説明文」でしかないのだ。その辺がこの作品の薄っぺらさや安っぽさを生み出していると思う。終盤に現れる世界(地獄)・世界(喜劇)なども、ただ言葉でしかなく、重みがない。悪い意味で作者の若さが爆発した作品という印象を受けた。
 また、作中には「産んでくれなんて頼んでないのにお前らが産んだから、俺はこんなにも苦しんでいるんだ。お前のせいだ!」と両親を罵倒する独白が入っている。これは主人公ではなく兄の台詞らしいが、作中の描写だけでそれを読み取るのは難しいのではないだろうか。また、私はこの独白部分を一読して引いた。親に対して「産んでくれなんて頼んでない」とはどんな中二病思考か。だが、これは作中でちゃんと糾弾されるんだろうと思って読んだのだが、それは結局そのままだった。これでは独白の内容を作品が肯定しているようにも見受けられてしまう。作中では主人公の罪はほぼ無視されて、主人公自身の苦しみにスポットが当てられているので、余計そのような印象を抱く。その点が不快ですらある。

*1:そう、Dies irae. とは無関係なのだよ。いつ出るんだlight。