考察・武装錬金はどこまで「武器」か?
(作中の設定としての)武装錬金は、錬金術が戦術兵器研究の成果として生み出されたものでした。が、そのわりに兵器としては非常に欠陥が多い品であると思います。確かにその性能はバカ高く、現代科学で再現出来ない様々な特殊効果を生み出す事が出来る。
けれど、『自由にその特性を出すことは出来ない(武装錬金の創造者個人の精神に依るため)』。その上、優れた特性を持つ武装錬金も、創造者固有のものですから、決して『量産できない』。それ以前に、精神感応的なもので作動するくせに、作動要因が『本能』なんですからどうしようもねえっす。戦術兵器といえど、軍隊に採用できる代物ではありません。核鉄が100個しかないのも、パルプンテ並に何が出来るか分からない不安定さから、途中で研究を打ち切られちゃったからじゃないでしょうか。ただ次世代の錬金戦術兵器が出る前に物語の時代に突入したようですけれど。
しかし、核鉄は現代の錬金術師にも新たに精製出来る人はいないようなので*1、錬金術の遺産・ロストテクノロジー的ですね。結局、失われた技術以上のものは開発出来なかったと。核鉄がなぜ、どうやって生まれたのかって背景ネタがあったら非常に興味深いんですけどね。でもそこにパラケルススとか絡んできたらベタっぽくなりそうだなあ。
閑話休題。
今回のタイトルですが、一応原作で答えは出ています。武装錬金ファイルNo.13/キラーレイビーズ(単行本7巻)にて、「武装錬金=武器及び兵器ではなく、武装(戦闘に関するモノ全般)」という定義が出ていました。その類例として軍用犬があるわけで。ただまあ、それだけじゃ納得行かない面が幾つかあるんですけれどね。というわけで、以下はブソレンに登場した武装錬金のモチーフ(形状)一覧。
*名前の並びは核鉄のシリアルナンバーが若い順。構想のみに存在する武装錬金は、『武装錬金∞』参照。
■白兵武器
▼剣(ソード)
忍者刀(ニンジャトウ)/『シークレットトレイル』/根来忍
日本刀(ニホントウ)//『ソードサムライX』/早坂秋水
月牙(ゲツガ)/『サテライト30(サーティ)』/ムーンフェイス*2
西洋大剣(ツヴァイハンダー)/『アンシャッター・ブラザーフッド』/剣持真希士 *小説版2
キドニーダガー/『クロムクレイドルトゥグレイヴ』/楯山千歳 *構想のみ
両手剣(トゥハンダー)/『ドミナント・マスターアーム』 *構想のみ
▼斧(アックス)
大戦斧(グレートアックス)/『フェイタルアトラクション』/ヴィクター=パワード
▼槍(スピア)
突撃槍(ランス)/『サンライトハート』→『サンライトハートプラス』/武藤カズキ
十文字槍(クロススピアー)/『激戦(ゲキセン)』/戦部厳至
三叉鉾(トライデント)/『ライトニングペイルライダー』/武藤ソウヤ *ゲーム
▼棹状武器(ポールウェポン)
処刑鎌(デスサイズ)/『バルキリースカート』/津村斗貴子*3
▼鈍器(クラブ、メイス)
戦闘鎚(ウォーハンマー)/『ギガントマーチ』/西山君 *小説版1
▼接近戦用特殊武器(セスタス、ネット、ウィップetc. )
鉄鞭(スチールウィップ)/『ノイズィハーメルン』/陣内
■間接武器
▼飛び道具(ミサイル・ウェポン)
弓矢(アーチェリー)/『エンゼル御前』/早坂桜花
戦輪(チャクラム)/『モーターギア』/中村剛太
▼遠距離用特殊武器(スリング、ボーラ、ブロウガン、ダートetc. )
該当なし
■銃火器
▼銃器
二挺拳銃(ダブルフルオートピストル)/『フルオートリベンジャー』/坂口照星 *構想のみ
▼火薬
黒色火薬(ブラックパウダー)/『ニアデスハピネス』/パピヨン(蝶野攻爵)
▼爆弾・砲弾
焼夷弾(ナパーム)/『ブレイズオブグローリー』/火渡赤馬
風船爆弾(フローティングマイン)/『バブルケイジ』/円山円
ミサイルポッド/『ジェノサイド・サーカス』/?
対人地雷(アンチパーソネルマイン)/『シャドウ・プット・マイン』 *構想のみ
■防具
▼完全鎧
全身甲冑(フルプレートアーマー)/『破壊男爵(バスターバロン)』/坂口照星
防護服(メタルジャケット)/『シルバースキン』/キャプテン・ブラボー(防人衛)
▼部分鎧
防毒面(ガスマスク)/『エアリアル=オペレーター』/毒島華花
兜(ヘルム)/『ルリヲヘッド』/アレキサンドリア=パワード
右篭手(ライトガントレット)/『ピーキーガリバー』/金城
▼楯
探知機(レーダー)/『ヘルメスドライブ』/楯山千歳*4
■乗り物
潜水艦(サブマリン)/『ディープブレッシング』/艦長(名前不明)
戦闘機/『フライング・バニー』/?
■その他
秘密基地(シークレットベース)/『錬金力研究所』/?
避難壕(シェルター)/『アンダーグラウンドサーチライト』/ヴィクトリア=パワード
チャフ/『アリス・イン・ワンダーランド』/D・バタフライ(蝶野爆爵)
軍用犬(ミリタリードッグ)/『キラーレイビーズ』/犬飼倫太郎
探知犬(ディテクタードッグ)/『バーバリアン・ハウンド』/故・犬飼老人
白兵戦武器が圧倒的に多いのはいいとして、終盤の追い込み展開で無茶苦茶な武装錬金も登場しているので、一部怪しげな物が混じっていますねー。潜水艦だけは、アニメで『三つの核鉄の合体武装錬金』であると説明されていたのでちょっとスッキリしましたけど。錬金力研究所も複数核鉄使っていそうですけど。単体だとどうなるんでしょうね。そして照星さんは単体で打ち切り男爵出せるんですよね……。
あと、「武器」として疑問が強いのが斗貴子さんの処刑鎌(デスサイズ)。形が鎌じゃないとか以前に、処刑鎌という武器は存在しないと思います。棹状武器としてはサイズ(大鎌)という、農耕具発祥の武器がありますが。処刑(多分斬首刑)に使われる刃物は普通斧です。剣とか難しいんですよ、新撰組だって処刑でうっかり耳削ぎ落とす事だってあるんですよ。髪の毛の防御力は凄いぞ! デスサイズという言葉が指すのは、どちらかというと「死神の鎌」のほうかと。つまり比喩表現や雅語としては存在するけど、処刑鎌という武器(処刑器具)としては存在していないはずです。
それがなして斗貴子さんの武装錬金として発動しているのかっつったら、まあ斗貴子さんにそういう知識と認識があったためだと思われます。筋金入りの忍者マニアである根来が『忍者刀』を発動したように(あるいは剣道者の秋水が日本刀を発動したように)、武装錬金のモチーフは当人の好みや知識に左右されて決定されると思われます。たまに二次創作のオリジナル武装錬金などで、創造者当人が自分の武装錬金のモチーフが何の武器なのか知らない、という例もありますがまあ二次だし。
ただ、モチーフの決定が創造者当人の知識の範囲で行なわれるなら、ディテールのほどはどうなるのでしょうか。銃を知っている人だって、構造から材質から完璧に把握しているはずもありません。となると、核鉄自体にありとあらゆる武器のパターンが入っており、そこから創造者の知識内にあるモチーフを選択し、それを再現。かつ創造者の性質性格に見合った特性を付加するワケで……ううむ、なんてステキ兵器。核鉄を作った奴は、余程軍事や兵器開発に優れていたのでしょう、数百年も前に巨大ロボットや戦闘機や秘密基地や潜水艦を考案しているんですからね。いや、むしろ核鉄自体にAIが搭載されていて、コミュニケーションはとらないけど常に最新の兵器知識を蒐集、日々こっそり進化を続けていたりして。ああ、こっちのほうがまだ納得が出来そうです(問題は、いつどうやって兵器情報の更新を行なっているのか、ですけれど)。
さて、武装錬金のモチーフが決定される要因は作中では殆ど明かされていません。まあ、概ね創造者の性格が反映されるわけですが*5、「こんなモンが出るコイツって一体……」と思わされるような武装錬金は少なくありません。特に円山(ミニマム特性)とか照星さん(巨大ロボ)とか、内面が凄いコトになっていそうなんですけどね。
そも、武装錬金の定義は「持つ者が秘めたる戦う力を形に変えた、唯一無二の武器」。秘めたる戦う力、というのがよく分かりませんが、私自身はこれを『当人の問題解決に用いる手段や能力』と解釈しています。心理テストでも、これこれこういう状況でこういう行動を取る人は、こういうパターンで物事の解決をはかろうとする、というのもありますしね。照星さんの例ですと、あの巨大ロボそのまんまな武装錬金と、火渡にたびたび拳を揮う姿から、「表面は紳士でも、根は力尽くで解決主義」という人格が窺えます。うむ、あまり間違ってないかも。この調子で考察していくと、「自動人形タイプの使い手は他力本願」とか、「防具系武装錬金の使い手は自己を律するのが得意」とか、色々想像出来ます。
以上、『創造者当人の問題解決能力(傾向)』+『創造者の知識にある武器』が武装錬金の形状選択に関わる要因である、と推察してきました。これらの要素の組み合わせによっては、一般には武器として認知されていない物も武装錬金の形状に選択される可能性があります。たとえばスプーンとか*6、チェーンソー(これは武器としての認識もありますが、一応工具ですね)とか、スパナとか、ネイルガンとか、シャーペンとか。また、和月氏当人の定義『戦闘に関するモノ全般』に従えば、ヘリコプターや装甲車・装甲列車(列車砲)、爆撃機、脚甲、船、楽器(音響兵器)、軍馬、野戦病院といった物も可能でしょう。冗談どころでは戦闘糧食(ミリタリーレーション)の武装錬金とか(連載が超長期化したら出たかもしれません。もちろん特性は食べた者の体力回復)。何とも核鉄は柔軟な合金であります。