上月雨音『SHI-NO ―シノ―黒き魂の少女』

『だが、悲しいことに――――
 生きたいという人間の意志は、しかし、死によってのみ完結される。』

 思わず表紙買い(絵師:東条さかな)した一冊。カバー折り返しの説明によると「大学生の僕とクールな志乃ちゃが送る純愛系ミステリー」だそうな。……その年齢差はヤバイというか、この二人の関係は恋愛ではなかったと思うんだが。誰だよこの文書いたの。
 最近、積読癖が少しづつ回復しつつありますが、それども読書ペースの遅い強固のごろ。表紙の志乃ちゃんに惹かれて買ったこの作品は、中々読み進めやすくて手ごろでした。
 粗筋は、作者があとがきで言っているように、小学生・支倉志乃と、大学生の「僕」の微妙な関係とその日常となります。ただしその日常には、その合間合間に狂気と猟奇が影を落としています。
 本作のヒロインともいうべき「志乃ちゃん」は、現実離れしているくらい長い(腰まである)黒髪に、視点が定めにくい黒い瞳、白い肌と、ステレオだが中々魅力的な容姿をしています。作者もこの子の描写に力を入れているようで、作品を読む上でのモチベーションになりました。
 この志乃ちゃん、どこか人間離れした容姿に加え、小学生らしからぬ思考力や思想を備えています。承前の00が彼女の独白だとすると、とても小学5年生とは思えない(笑。むしろ、「見た目は子ども、中身は齢数100歳」みたいな感じ。でも、主人公の「僕」は彼女を生まれた時から知っているので、そういうキャラではない。そんな彼女が犯人を追い詰める姿は、探偵というよりも、不気味な泡の死神に似ている。
 そして、支倉志乃という少女が、普通の小学生と違う所はもう一点。彼女は、猟奇事件や怪奇事件に異常な興味を示す、「黒い魂」の持ち主なのです。この黒い魂とは何なのか、作中で明確に示されてはおらず、どこか伝奇的な要素にも思える描写もあったのですが、まあ、そこは味付けの一つと思ってあまり深く考えず、字面のイメージで読み進んでOKでしょう。
 まだ幼い彼女が猟奇的事件に興味を示す事を、当然主人公は快く思いません。もっと彼女には、普通に生きて欲しい。教育とは畢竟、「洗脳」ではないか? というやり取りが、主人公とその先輩の間で交わされたりもしたけれど。それでも「僕」の願いは、普通の大人になって、泣いたり笑ったり怒ったりして欲しい、ただそれだけ。――けれど志乃ちゃんは、そういった事件から垣間見える人間の狂気を、感情で拒否することは決してなく。静かに、全てを受け容れていく。
 後書きにて作者がのたもうている本作のテーマ、「永遠の生」と「命の軽さ」、そしてそれらを繋げる言葉「デッドエンドコンプレックス」。物語はデッドエンドコンプレックスの名前を持つ自殺サイトと、それにまつわる事件に、大学生の「僕」と志乃ちゃんが関わりながら進んでいきます。さきの教育論の話はもうちょっと深く突っ込んでも面白かったと思うけれど、本筋のテーマ自体の扱いも結構楽しめました。一見相反する「永遠の生」と「命の軽さ」が結びついたその結論は、もしかして陳腐なものかもしれないけれど(つーかイデア論とか思い出した)。
 ささやかなミステリーと、キャラの魅力、読みやすさなんかを考えると、中々お手軽に楽しめる一冊。表紙を見て、志乃ちゃん絵が気に入ったら是非どうぞ。

※書いてから気づいたが、「アリスの子守唄」ってタイトルで続刊が出てんのね。買いだな、買い。